バッハ『カンタータ第55番』
《我哀れなる人、我罪の下僕》
-三位一体節後第22日曜日用-
テノールの為の現存する唯一の真作カンタータ。1726年11月17日の礼拝の為に作曲された。テキストはこの日曜日の礼拝内容に即し、人間に付きまとって離れぬ罪を告発して、厳しい自省を導く。即ち、罪に塗れた、「われ」が裁きを下す「神」の前に襟を正し、嘆き訴えて憐れみを請うのが、このカンタータである。
冒頭、ト短調のアリアは、バロック的修辞技法を駆使した、心苛む苦悩の表現。続くレチタティーヴォが神の裁きの正しさを認めた後、フルートを伴うニ短調のアリアで悔恨は、祈りへと深まる。だが、こうした罪と滅びから人を救うためにこそ、キリストは受難したのではなかったか? 次のレチタティーヴォでこのことが認識されると、「われ」の心は次第に安らぎ、音楽は、神への全き信頼を歌うコラールへと入ってゆく。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
* 楽曲構成 *
第1曲-アリア(テノール)、ト短調
第2曲-レチタティーヴォ(テノール)
第3曲-アリア(テノール)、ニ短調
第4曲-レチタティーヴォ(テノール)
第5曲-コラール(四声部)、変ロ長調/J.リスト1642年作夕拝コラール第6節
保有CDは、リヒター盤だけしかない。しかし、手兵のミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団を率いて、バッハ教会音楽の総本山たるライプツィヒ聖トーマス教会に乗り込んだ意欲作である。リヒターといえば、もともとライプツィヒ音楽院(大学)出身で、当該教会オルガニスト(在職1949-1951)を務めたこともある。当然、トーマスカントール(バッハの在任期間1723-1750)との交流も深く、カール・シュトラウベ(在任1918-1940)、ギュンター・ラミン(在任1940-1956)とは師弟関係になるらしい。依って、別の観方をすれば〝故郷に錦″を飾ったと言えなくもない。〝聖地″での録音とあって、気合の入れ方が違ったのか、リヒター全録音中、出色の演奏となっている。
なお、当盤録音時のカントールは、クルト・トーマス(在任1957-1961)であったが、リヒターとの関係は不明。
リヒター盤(1959年ライプツィヒ聖トーマス教会での録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
エルンスト・ヘフリガー(テノール)
オーレル・ニコレ(フルート)
エドガー・シャン(オーボエ・ダモーレ)
バッハ・教会カンタータの模範演奏と言ってよい。
* ご参考 * トゥアン盤(1957年モノラル録音)
指揮;マックス・トゥアン
ハンブルク・北ドイツ放送(NDR)交響楽団&合唱団
ゲオルク・イェルデン(テノール)
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