台湾総統選4人に1人が「第三極」あえて選択
民衆党が若い世代から支持を集めた背景
1/24(水) 7:02配信/AERA dot.電子版
台湾総統選は与党・民進党が勝利したが、注目すべきは第三勢力である柯文哲率いる民衆党の躍進だ。台湾の政治体制は、中国と距離を置く民進党(緑色陣営)と、中国大陸との融和姿勢を重視する国民党(藍色陣営)の二大政党制として語られてきたが、いま何が起きているのか。AERA 2024年1月29日号より。
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「過去8年間の民進党政権はムダ遣いが多かった。柯文哲は台北市長時代にしっかり仕事をしていて、信頼できると思う」
地方都市の新竹市から家族4人で応援にやってきたという、ハイテク企業に勤務する40歳の王氏(仮名)はそう話した。今回の民進党の伸び悩みは、蔡英文政権下で経済停滞や住宅難・労働問題といった社会問題の解決が不十分だったとみなされたことも大きいのだ。
■二大政党の対立に食傷
王氏と妻は前回の選挙では“緑色”(民進党)に投票したが、今回は柯文哲の民衆党を熱心に支持している。王氏は言う。
「両岸関係(中国との関係)は、個人的には重要度が低い。ただ、柯文哲はアメリカにも中国にも寄り過ぎないからいい」
いっぽう、“藍色”(国民党)支持者の外省人(戦後に中国大陸から渡ってきた中国人)家庭出身の23歳の男性はこう言う。
「古い政党である国民党は、若者のことを考えてくれない。でも、民進党の頼清徳は中国を挑発しすぎて危険だから支持できない。周囲の友達も、みんな柯文哲と民衆党支持だ」
各種世論調査では、20~39歳の台湾人の間で民衆党の支持率は5割を超えている。
その一因は、中台関係ばかりを争点とする二大政党の対立にうんざりする感覚が、世代が下がるほど広がっていることにある。
民衆党は国家観や対中政策については、台湾アイデンティティーをほどほどに主張しつつも、経済発展につながる中国との交流拡大にも積極的という玉虫色の立場だ。このことがかえって、若い世代の支持を得た。
■寄せ集め政党の側面も
もっとも、民衆党を率いる柯文哲は批判も多い政治家だ。
彼はもともと民進党の元総統・陳水扁や蔡英文の支援者で、同党の支援を受けた無所属候補として2014年に台北市長に当選。だが、やがてYouTubeなどで与党を辛辣に批判しはじめるようになった。
舌禍も多く、2017年には自身が過去に医師として診察した陳水扁(総統退任後に汚職容疑で収監され、体調を崩していた)について「最初は詐病だったが、やがて本当になった」と発言、医師のコンプライアンス違反として罰金を科されている。
2019年に彼が立ち上げた民衆党は、柯文哲の台北市長時代の業績を強調しつつ、出産手当・こども手当の拡大や、公共住宅の申請負担の軽減など若い世代向けの政策を打ち出して支持を伸ばした。だが、目先のバラマキを打ち出すポピュリズム政党だとする指摘も根強い。
事実、党のスタンスの危うさは、民衆党の立法院選候補者の過去の経歴からも感じ取れる。
すなわち、比例1位の黄珊珊と6位の林国成は親民党(国民党の分派)出身、比例2位の黄国昌は台湾独立派政党の時代力量の創始者、比例3位の陳昭姿は一辺一国行動党(民進党の分派)出身だ。
さらに落選した候補者や党役員には、国民党の分派で中台統一派の新党や、逆に古い台独派の台湾団結連盟の出身者もいる。
大同団結できるとは思えないほど、本来の政治的思想がかけ離れた人たちばかりである。
これは、あらゆる支持者が自分が望む国家のイメージを投影しやすい半面、党としての軸が不透明なことを意味する。だが、既存政治に飽きた台湾の有権者の4人に1人は、そんな曖昧な「第三極」をあえて選んだ。
今後4年間、台湾の既存の二大政党は、キャスティングボートを握る民衆党の機嫌を取りながら議会戦略を組み立てることを余儀なくされる。
今回の選挙は、民主化から約30年を経た台湾が、民主主義がもたらす試練に直面した出来事として後世に記憶されるのではないか。(ルポライター・安田峰俊)
※AERA 2024年1月29日号より抜粋
安田峰俊(中国ルポライター)
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台湾総統選
有権者のメッセージは明確だ
民主主義下の選挙の意義示す
高投票率の秘訣は?
1/25(木) 10:16配信/サンデー毎日電子版
台湾有権者は絶妙なバランス感覚で、民主主義の手段としての選挙の意義を示した。低投票率の日本は学ぶべきところが多い。
■政権維持も国会の過半は許さず
世界の「選挙イヤー」の先陣を切って1月13日、台湾総統選挙が行われた。台湾の主体性を重視する与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統が対中融和派の2候補を破り、中国の圧力には屈しない姿勢を見せつけた。
一方で、同時に実施された立法委員(国会議員)選挙で、最大野党・中国国民党(国民党)が比較第1党となるなど、有権者は絶妙のバランス感覚を発揮し、民主主義の手段としての選挙の意義を改めて示した。
■見事なバランス感覚
台湾総統選には頼氏のほか、国民党の侯友宜・新北市長、第三勢力・台湾民衆党(民衆党)の柯文哲・前台北市長が出馬を表明。世論調査で頼氏がリードを保つ中、侯氏と柯氏が候補一本化で合意したものの、交渉はまとまらず、三つどもえの争いとなった。
選挙戦は、武力侵攻もちらつかせながら統一を迫る中国とどう向き合うかが最大の争点となった。台湾の主権を守るため毅然と対応すると訴える頼氏に対し、侯氏と柯氏は中台間の緊張緩和に向け、対話を強化すべきだと主張した。
民進党政権の継続を阻止したい中国は、台湾から輸入する繊維原料の関税優遇を停止するなど、経済面で蔡英文政権に揺さぶりをかけた。中国の気球が台湾上空を通過するなど、安全保障面でも緊迫したムードに包まれた。
台湾の住民は、中国と経済や文化交流を行うことには賛成でも、急激な接近には拒否感が強い。2014年には、当時の国民党・馬英九政権が進めた対中傾斜策に反発する学生が立法院(国会)を占拠する「ヒマワリ学生運動」が起こった。
半面、長年にわたる国民党一党独裁体制を経験した台湾では、長期政権に対する警戒感が強い。格差の拡大などで、蔡政権への不満も高まっている。00年の初の政権交代以来、民進党と国民党が2期8年ずつ交互に政権を担当しており、今回、民進党が初めて「8年の壁」を破るかどうかが注目された。
そうした見どころを含んだ総統選と立法委員選だったが、全体的な結果は、見事にバランスが取れたものとなった。有権者の意思が伝わってくる選挙といえよう。
総統選は頼氏が当選し、民進党が政権を維持することになった。蔡政権の対中強硬姿勢も引き継がれる。だが頼氏の得票率は40.05%で、対して2位の侯氏(33.49%)と3位の柯氏(26.46%)を合わせると6割に上る。「政権交代を望む民意が主流」とも解釈でき、頼次期政権は緊張感を持って政権運営に当たらざるを得ない。
また、立法委員(定数113)は3党とも過半数の57議席に届かず、国民党が52議席で小差ながら民進党の51議席を上回り、比較第1党となった。民衆党は8議席で、残りは無所属2議席。民進党は現有62議席から11議席失い、国民党は現有37議席から15議席増やした。民衆党は現有5議席から3議席上積みした。
■投票率71.86%
台湾の政治制度では、立法院で過半数を占めないと、法案や予算案を否決されるなどして、政権運営は厳しくなる。00~08年の民進党・陳水扁政権は一貫して少数与党に甘んじ、何度も苦杯をなめた。今回8議席を得た民衆党がキャスチングボートを握る情勢となり、民衆党を味方につけようとする民進党と国民党の駆け引きが既に始まっている。
さらに、22年11月に行われた統一地方選で国民党が大勝したことも加味すると、台湾の有権者が今回の選挙で発したメッセージは明確だ。対中・対米政策を軸とする蔡政権の基本路線は支持するが、民進党にオールマイティーの権力を与えたわけではないという意思表示である。
5月20日に発足する頼政権は、これまで以上に野党の声に耳を傾けなければならず、時には妥協も必要となる。陳政権時代の政治混乱を知る台湾の有権者が、それでも今回、政権と議会のねじれを選択したのは、8回目となる総統選の歴史を通じて、それは「民主主義のコスト」だと認識しているからだろう。
国民党一党独裁時代の台湾では、自由や人権を抑圧する体制が続いた。苦難の末、民主化を達成した台湾の人々は、特定の政党や政治家に権力が集中するのを嫌う傾向が強い。意思決定に多少時間がかかっても、権力をチェックする仕組みが整っている方が健全だと考えているのだ。
「民主化は我々の手で勝ち取った」という意識も強い。自分の1票でリーダーを決めることができるようになった喜びは大きく、それは投票率に反映される。初の政権交代が実現した00年の総統選は、過去最高の82.69%を記録した。台湾の選挙制度は、現住所ではなく戸籍のある場所で投票しなければならず、期日前投票もない。今回は71.86%で、前回の74.90%より下がったものの、かなり高いと言える。
■若者も投票所に
台湾では現在、失業や低賃金にあえぐ若者らの間で政治への失望感が広がっており、今回の選挙の投票率は下がるとの見方も出ていた。結果的に70%を超えたのは、そうした若者も棄権せずに投票所に足を運んだことを意味している。若者層では2大政党を批判する柯氏の支持者が多く、柯氏の得票率を押し上げたとみられている。
前回は、民主化を求めて闘う香港の人々に共感する若者の多くが、「1国2制度」反対を旗幟(きし)鮮明にする蔡氏に票を投じたことで、投票率が上がった。若者の関心事は時代とともに変化するが、常に若者を引き付けるテーマが生み出されていることが、台湾の高投票率の秘訣だろう。
24年はこの後、米国、ロシア、インドネシア、メキシコの大統領選挙、韓国やインドの総選挙、欧州連合(EU)議会選挙など、世界で主要な選挙が目白押しだ。今、民主主義国家内でも保守派対リベラル派など分断が常態化し、公約を競い合う場である選挙が非難の応酬の場と化している。「投票しても、社会は変わらない」との無力感も漂う。
そうした状況の中で行われた台湾の総統選と立法委員選は、投票を通して民意を表明するという、選挙本来の役割や重要性を可視化した。選挙をする度に低投票率が問題となる日本も、学ぶべき点が多いのではないか。
(近藤伸二・ジャーナリスト)
コメント総数;3件
一.
台湾は民主主義国で大切な事です。
中国は共産国の独裁者の国てわ違います。
試してください。台湾の街の中で国の代表者の悪口を大きな声で叫んでも逮捕はされません。
これは日本でもアメリカでも各EU国民でもそうです。これが自由国の姿を見てです。
中国やロシア、北朝鮮でその国のトップの悪口を叫んだら即逮捕でしょう?
これが自由世界の姿をです。
中国と台湾の違いです。台湾は中国にはなりません。
台湾万歳、
二.
台湾の人の何の主義に関係がなく、台湾は中国の台湾だ。早かれ遅かれ中国が台湾省を解放することが歴史の必然だ。
三.
日本の政治はアメリカの傀儡政権である自民党に支配された一党独裁である。台湾の民主主義とは異なる。
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AERAは朝日新聞グループ、サンデー毎日は毎日新聞傘下の週刊誌である。従い、寄稿者の安田峰俊氏も近藤伸二氏も左派系言論人と見做してよいかも。面白いのはコメント欄。右派系紙ばかりを採り上げる当方とは真逆と言わざるを得ない。それも中国共産党プロパガンダを垂れ流すしか能のない変態コメントばかり。レポート内容自体にウソはないのだが、台湾政治の皮相な部分だけしか見えていない底の浅さは如何ともし難い。同じチャイナウオッチャーでも福島香織氏は、流石に台湾政治の深層に迫る分析を行っている。
【Front Japan 桜】票で勝って議席で負けた台湾立法院の行方[桜R6/1/23]
キャスター;福島香織(ジャーナリスト)
我ら日本人が台湾の政治情勢を語る場合、親中派か親日欧米派かの対立軸に目を奪われて結論付けがちだが、果たしてそれほど単純な問題なのだろうか。現に我国の政治について、親中派か親欧米派かなど争点になることは殆どない。概ね内政問題、とりわけ景気や物価対策等暮らしの経済政策が主要な争点だと思う。台湾とて同じこと、有権者の関心事も暮らしの向上に在って然るべきではないか。、、
日本にとって台湾も中国も諸外国の一つに過ぎないのと同様に、台湾にとっても日本や中国は〝外国″に他ならないのである。外交は選挙の争点にならないと言っておきながら、台湾に関して争点にするのは大いなる矛盾と言わざるを得ない。
福島さんの分析で興味深かったのが、中国国民党の凋落とポピュリズム(大衆迎合)政党としての民衆党の躍進である。
【ポピュリズム】-populism-
①一九三〇年代以降に中南米諸国の都市化を反映して発展した、
労働者を支持基盤とする民族主義的な政治運動。
②俗に、大衆に迎合するような政治姿勢をいう。
民衆党の当選者が、時代力量(独立派)や国民党から分離した親民党出身者など政治理念の異なる寄せ集めであることに驚いてしまう。つまり、時流に乗っただけのファッション(流行)政党であることが判る。福島さんによると今回、十六もの政党が立候補したのだとか。比例代表には得票率3%未満の足切りがあるため、結果的に民進党、国民党、民衆党の三大政党しか当選者が居なかっただけらしい。
民衆党は寄せ集めであるがゆゑに、政治理念の違いが表面化して内部崩壊する危険性を孕んでいる。柯文哲党首の人気に肖ったワンマン(個人)政党なので、彼の考え方次第でどうにでも転ぶ気がする。とはいえ、都市部を地盤とする点に於いてどちらかと言えば国民党より民進党と競合する。勢い、政策面でも民進党に近い。
片や国民党の場合、離島・過疎地を地盤とする地域政党に成り下がりつつある。今後更に都市化が進めば一気に雲散霧消する可能性もある。頼みの中国が政治的にも経済的にも没落しつつある今日、中国マネーも充てにはならないジレンマに悩まされ続けるであろう。
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