礒山雅氏の解説ッハ『カンタータ第45番』
《人よ、汝は先に告げられたり、善きことの何なるか》
-三位一体節後第8日曜日用-
1726年の8月11日に初演されたカンタータで、ルードルシュタットで出版された台本による1曲。テキストが注目するのは、福音書章句における「『主よ、主よ』と言う者がみな天国に入るのではなく、ただ父の御旨を行う者だけが入る」という件である。このため曲は、旧約のミカ書にある御旨の宣告を、高らかに掲げて出発する。統一的にモティーフ構成された、大がかりな合唱曲である。御旨の正しさを告白する嬰ハ短調のテノールアリアが引き取るのは、命題を補完する、主題の温もりであろうか。第2部のはじめでは、力ある審きを預言するイエスの言葉が、脅かすような現のパッセージを伴って、大きく展開される。これにも、信仰ある者の義とされる喜びを語るアルトのアリアが、見事な対比を見せつつ寄り添っている。終曲は、義務の履行を誓う小コラール。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
*楽曲構成*
《第一部》
第1曲-合唱(四声部)、ホ長調
第2曲-レチタティーヴォ(テノール)
第3曲-アリア(テノール)、嬰ハ短調
《第二部》
第4曲-アリア(バス)、イ長調
第5曲-アリア(アルト)、嬰ヘ短調
第6曲-コラール(四声部)、ホ長調、J.へールマン作(1630年)
これと言って特徴のない地味な曲だが、リヒターの名盤があるので採り上げた。厳しいリヒターの統率力もさることながら、独唱陣が何れも素晴らしい。リヒター初盤『マタイ受難曲』と同年の録音で、当盤の独唱者は総て『マタイ』の録音にも参加している。
リヒター盤(1959年録音)
指揮;カール・リヒター
アンスバッハ・バッハ週間管弦楽団
ミュンヘンバッハ合唱団
ヘルタ・テッパー(アルト)
エルンスト・ヘフリガー(テノール)
キート・エンゲン(バス)
オーレル・ニコレ(フルート)
この〝厳しいバッハ”に比べると、1975年以降、いわゆる晩年のリヒター盤は聴くに堪えない。これが同じ指揮者かと疑いたくなるほど、タガが外れた凡演ばかりを繰り返していた。独唱陣やソロ楽器には著名演奏家を結集しているにも拘らず、である。原因を知る由もないが、まことに残念なことである。
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