バッハ『カンタータ第137番』
《主を頌ねまつれ、力強き栄光の王をば》
-三位一体節後第12日曜日用-
1724年のコラールカンタータ年巻に当該日曜日用カンタータを書きそびれたバッハは、翌1725年の8月19日に、厳格なコラールカンタータを世に送った。即ちこの作品は、J.ネアンダーのコラールを全篇そのまま使い、その旋律を、全節に於いて響かせているのである。3本のトランペットとティンパニを含む華麗な編成、近代的なコラールに相応しい明るい賛美の音調、この作品には、充実しきったバッハの姿がある。
レチタティーヴォを欠く五つの楽章は、第3曲の二重唱を中心に、十字架的な対称構成を成す。すべての楽章が「主を頌めまつれ」の言葉で始まるが、それらがいずれも三拍子で書かれているのは、コラール旋律の個性に加えて、三位一体の神への讃美を含意するものであろう。喜ばしい冒頭合唱曲に続くアルトのアリアは、のちに《シュープラーコラール集》の第6曲となったもの。天より下る愛の流れを描くテノールのアリアでは、トランペットがコラール旋律を引用する。小コラールは、輝かしい七声部になっている。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
*楽曲構成*
第1曲-コラール合唱(四声部)、ハ長調/J.ネアンダー作(1680)コラール第一節
第2曲-アリア(アルト)、ト長調/同上第二節
第3曲-二重唱アリア(ソプラノ、バス)、ホ短調/同上第三節
第4曲-アリア(テノール)、イ短調/同上第四節
第5曲-コラール(四声部)、ハ長調/同上第五節
大した曲とは思えないが、壮麗な終結コラールを聴くだけで、大曲に接したような気分を味わえるので採り上げた。保有CDは次の二種。
ラミン盤(1953年ライプツィヒ聖トーマス教会でのモノラル録音)
指揮;ギュンター・ラミン(トーマスカントール)
ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊
聖トーマス教会聖歌隊員(ボーイソプラノ、ボーイアルト)
ゲルト・ルッツェ(テノール)
ヨハンネス・エッテル(バス)
教会カンタータの模範的演奏と言いたいが、疑問がなくもない。それは、少年聖歌隊員をソプラノ&アルト独唱パートで代用している点。独唱者を呼ぶカネ(資金)がなかったのか、事情は知らぬが、ソプラノパートはともかく、アルトの代用はいただけない。本来、女声を想定して書かれた部分を、少年とは言え男声で誤魔化すのは如何なものが。とりわけアルトは、聖母マリア的〝母性”の象徴でもある。それを少年に表現させようとしても、所詮無理無体である。
リヒター盤(1975~1977年録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
エディット・マティス(ソプラノ)
ユリア・ハマリ(アルト)
ペーター・シュライヤー(テノール)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バス)
リヒター晩年に近い頃の録音だから、義務的な演奏で気力に欠ける。良い意味での張り詰めた緊張感が抜け落ちていて、宗教的感動もヘチマもない凡演。嫌いなシュライヤーが参加しているが、そもそも両端楽曲しか聴かないし、ラミン盤があるのでリヒター盤を聴くことはまずない。
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