「戦後」を代表する映画・TVドラマに『青い山脈』がある。石坂洋次郎の同名小説(朝日新聞連載;昭和22年)を原作としている。“戦後の代表”とする理由は、「戦後憲法」施行直後に連載が開始され、“民主主義の啓発”が企図されたらしいからである。尤も、原作を読んだわけではないので事実か否かは解らない。しかし、ウィキペディアではそんなニュアンスの記述になっている。
映像化されたものを調べてみたら、映画化5作(二部作は一作品として)・TVドラマ化3作の合計8作を数える。
映画版
1.昭和24年東宝;今井正監督/井手俊郎他脚本/服部良一音楽/原節子主演
2.昭和32年東宝;松林宗恵監督/井手俊郎脚本/服部良一音楽/宝田明主演
3.昭和38年日活;西河克己監督/井手俊郎他脚本/池田正義音楽/吉永小百合主演
4.昭和50年東宝;川崎義祐監督/井手俊郎他脚本/服部克久音楽/三浦友和主演
5.昭和63年松竹;斎藤耕一監督/山田信夫脚本/服部克久他音楽/館ひろし主演
配役の変遷
・島崎雪子=原節子→司葉子→芦川いづみ→中野良子→柏原芳恵
・笹井とら=木暮実千代→淡路恵子→南田洋子→星由里子→梶芽衣子
・金谷六助=池部良→久保明→浜田光夫→三浦友和→野々村真
・富永安吉=伊豆肇→太刀川洋一→高橋英樹→田中健→×
・沼田玉雄=龍崎一郎→宝田明→二谷英明→村野武範→館ひろし
・笹井和子=若山セツ子→笹るみ子→田代みどり→木村理恵→池田純子
・駒子=立花満枝→森啓子→松尾嘉代→×→石田浩子
・松山浅子=山本和子→水谷良重→進千賀子→加藤小夜子→松岡由美
・寺沢新子=杉葉子→雪村いづみ→吉永小百合→片平なぎさ→工藤夕貴
・井口甚蔵=三島雅夫→志村喬→三島雅夫→大滝秀治→小松方正
・武田校長=田中栄三→十朱久雄→下元勉→小栗一也→×
・八代教頭=島田敬一→村上冬樹→織田政雄→田武謙三→×
・岡本先生=藤原釜足→藤原釜足→井上昭文→宮口精二→×
・田中先生=生方功→田島義文→藤村有弘→山谷初男→×
・中尾先生=三田國夫→堺左千夫→×→安田伸→×
・小野先生=諏訪美也子→中北千枝子→×→塩沢とき→×
・白木先生=原緋紗子→一の宮あつ子→北林谷栄→南風洋子→×
・北原先生=飯野公子→草笛光子→×→×→久野翔子
・六助父=石島房太郎→中村是好→×→×→×
・六助母=英百合子→賀原夏子→×→×→×
・六助姉=志茂明子→×→×→×→×
・新子父=×→×→清水将夫→×→池部良
・新子母=×→×→×→×→野際陽子
・野田アツ子=岩間湘子→小西瑠美→×→千波恵美子→×
テレビ版
6.昭和37年毎日放送;中沢昭二脚本/高田美和・山田真二主演
7.昭和41年日テレ;番匠義彰他監督/笠原良三他脚本/加賀まりこ・関口宏主演
8.昭和49年フジテレ;真船禎演出/井手俊郎他脚本/坂口良子・志垣太郎主演
以上のうち、リアルタイムで観たのは皆無、かつ現時点で「1」と「3」しか観たことがない。それで話題にしようというのだから、ピント外れになるかもしれない。ただ、こうして作品毎の属性を眺めていると、原作者の意図がどうであれ、時代や制作者の考え方によってずいぶん違った印象を持つ。例えば配役、便宜上、「1」のクレジット順に並べたが、後の作品で島崎雪子役が主演(主人公)であるケースは一つもない。
トップクレジット俳優
1.原節子(島崎雪子役)
2.宝田明(沼田玉雄役)
3.吉永小百合(寺沢新子役)
4.三浦友和(金谷六助役)
5.館ひろし(沼田玉雄役)
6.高田美和(寺沢新子役)
7.加賀まりこ(寺沢新子役)
8.坂口良子(寺沢新子役)
何が言いたいかというと、原作は昭和22年に書かれている。つまり、生徒を含む登場人物は全て戦前・戦中の義務教育を卒えた【教育勅語】世代であることに留意したい。ところが、制作年代が新しくなるにつれ、制作スタッフ・キャストともに【教育勅語】を知らない戦後世代ばかりで占められるようになる。したがって、飽くまで想像だが、時代設定を現代(制作年)に置き換えてあるのではないか。「1」は原作と2年しかズレがないので新子ら女学生、六助ら中学生は【旧制】のままで例外だが、「3」をみる限り舞台が現代(昭和38年)に置き換えられ、登場する男女生徒・学生はみんな【新制】になっている。まぁ、それぞれの時代が反映して、それも一興だろうが、個人的には世の中が一変して戸惑う戦前派(アバンゲール)熟年層と我が世を得たりの戦後派(アプレゲール)若者層の対照に妙味があるような気がする。その意味で、「1」には【オリジナル】の佳さがある。
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