あ~ぁ、また視るハメになっちゃった、韓流ドラマ。何時もながらのスカパー無料開放があり、日テレプラス(CS300)の『善徳女王(선덕여왕;そんどぐ・よわん)』を視てしまったのがいけなかった。以前に何処かのBS局で一度視た憶えがあるが、その時はお終い近くの数回だけだったため、録画もしなかった。
韓流ドラマの場合、国内ドラマみたいに【一話完結方式】を採っていないのが通例で、途中回を少しでも見逃すと物語の連続性が断たれて解り難くなる。偶々、物語の発端となる第1話を視てしまったのが運の尽き。概ね各話のクライマックスで終わるように意図(?)して作られているため、次回どうなるのかが気になって夜も眠れない。
“眠れない”は多少大袈裟としても、一種の中毒状態に陥ることだけは確か。だが、視てしまえば大したことなくがっかりするのがオチ。無料だったのは16話まで、その後はレンタルDVDで補った。主人公の善徳女王は、朝鮮半島初の女帝(27代新羅王)で実在人物とされる。日本初の女帝推古天皇(第33代)とほぼ同時代(在位期間;善徳632-647/推古593-628)を生きた女性として興味深い。また、ドラマの舞台(徐羅伐<そらぼる>;新羅の首都)は現在の慶州。10年ほど前、たった一度の韓国旅行の際、立ち寄ったことがある。そこには、善徳女王が造成したとされる天文台(ドラマにも出てくる)遺跡もあったが、真新しかったのでおそらくレプリカ(模造物)に相違あるまい。
父親が真平王(26代)、母親は摩耶夫人とされるから、天明公主(姫)や善花公主(姫)とは姉妹関係になる。但し、『薯童謠(ソドンヨ)』(韓国SBS;2005年)のヒロイン善花(そんふぁ)公主は『三国遺事』の「薯童説話」に名が観られるだけで、実在したかどうかは不明。しかも、遙か千五百年もの昔の話であり、建国神話と結びついた複雑な問題をも孕む。なぜなら、日本でいえば「記紀」に由来するようなものだから。
ところが、歴史を俯瞰するに、日韓では建国の事情がまったく異なる。これは意外に重要な要素であって、当然ながら史劇・時代劇ドラマにも反映する。具体的には、日本の皇室が同じ大和(日本)民族内から興ったのに対し、当時(七世紀)の朝鮮半島は、高句麗(扶余系)・百済(扶余系)・新羅(女真系)の三国とも、満洲一体を地盤とする北方騎馬民族に強奪(異民族支配)されていたのである。つまり、主人公徳曼(とんまん=善徳女王)は王族(=女真系)であって、現代人(北朝鮮・韓国民)とは何ら血の繋がりがない。従い、韓国の人々が徳曼を民族的英雄視するのは、戦後日本人がマッカーサーを崇めるのと同じくらい倒錯した考え方と言わねばならない。
上記を踏まえてこのドラマを視ると、とてつもない違和感を禁じ得ない一方で、民族性や精神文化(物の観方・考え方)の違いが垣間見えてくる。現代がそうだからそれに倣ったのか、伝統的にそうなのかは詳らかでないが、何事にも損得勘定で行動する究極の利益社会(ゲゼルシャフト)として描かれる。俺の物は俺の物、お前の物も俺の物と言わんばかりに、私利私欲剥き出しで一つの物や人材・地位を奪い合う子供じみたゼロサムゲームが繰り広げられる。さすがは何でも【우리나라(うりなら;自慢気に語るときの“我が国”を指す)】のお国柄である。須く二者択一の短絡的思考に終始し、そこには【共存共栄・譲る・分かち合う】といった第三の道を探る高度な創造的着眼点がまるでない。
殺るか殺られるかの殺伐とした場面の連続である。王侯・貴族(支配層)の栄華を貪る暮らしぶりとは逆に、貧困に喘ぐ一般民衆(被支配層=現代北朝鮮・韓国民の祖先)の生活は凄惨極まりなく落差が著しい。何も本作に限らず韓流ドラマ全般に共通して言えることだが、作風があまりにも即物的なせいもあって、情緒的な側面、とりわけ人間味溢れる温もりといった情感が全然伝わってこない。
そこを意識してか、【愛する】【信じる】【護る】【真心】【忠誠】など歯が浮くような語が盛んに飛び交うが、言葉とは裏腹に【虚偽】【謀略】【騙し討ち】【窃盗】【隠し事】【裏切り】【妬み】【盗み聞き】など、欺瞞に満ちた行動となって顕在化する。悪役(このドラマでは美室<みしる>という女傑)側ならまだしも、あろうことか主人公徳曼をしてさえ、敵方(美室)とまったく同じ手口を使って女王の座に就くのだから開いた口がふさがらない。要するに必要悪とでも言いたいのか、誰もがこれらを「悪い事」とは考えてないらしい。【目的のためには手段を選ばず】とはまさにこのこと。しかも、悪役(逆賊)側が使うと即座に「奸心」と見なされ、同じ行為も主人公(官軍)側なら忽ち「大義」に適って賞賛されるのだから、何をかいわんやである。【勝てば官軍】とは、ひょっとして朝鮮半島起源の伝来語では?、と疑ってしまったほど。
時代が約千年ほど違うものの、映画『神州天馬侠』(東映;昭和33年)と見比べた。テレビが普及してなかった頃の子供向け映画なので物語は単純そのもの、かつ映像技術も甚だ幼稚であるが、韓流ドラマとは決定的に異なる点がある。主人公伊那丸(沢村精四郎;滅亡した武田家の末裔)側は、たとえそれが有効と分かっていても決して卑怯・卑劣な手段を使ったりしない。どんな局面でも正々堂々としていて実に気持がよい。正しい者は【目的のためといえども手段を選ぶ(常に正攻法で臨む)】べきとの暗示であろう。一方、ここでの悪役、滅ぼした側の徳川家康(柳永二郎)陣営は「悪い事」の限りを尽くして攻めまくる。
まぁ、さんざん酷評したが、主演のイ・ヨウォン(이요원;李枖原)さんは嫌いではない。特に前半はほとんどが男装なので、凛とした風格が備わった感じ。男勝りの女は困るが、外見が弱そうでも心(しん)の強い(精神的に強い)女性には惹かれるのですよね。終盤が安っぽいメロドラマ風になってしまい、全体の印象をスポイルしていて惜しい。
善徳女王-第47・48話ダイジェスト
善徳女王47・48話ダイジェスト 投稿者 daruma356
《補足》
目下、Gyao!動画にて無料配信されている。よろしかったらどうぞ。(10月12日現在)
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