かつて、「韓流ドラマにはもう飽きた」と書いた。実際、ここのところ完全に興味が失せたし、録画済分を含めて再度視たいとも思わない。ところがBS有料放送【日本映画専門チャンネル】で、先月(9月)から『結婚できない男』(関西テレビ;2006年-全12話)が再放送されている。明日の月曜日には最終回を迎えるが、これこそが韓国版同名ドラマ(KBS;2009年-全16話)のオリジナル版というわけ。
【「日本映画専門」チャンネル】を唱いながら、そもそも“映画”の範疇でもないテレビドラマまで何ゆゑ放送せねばならないのか理解に苦しむ。まあ、そんなことはどうでもよいのでこの際おいといて、比較する意味で韓国版も再視聴してみた。オリジナル版(阿部寛主演)より韓国版(チ・ジニ主演)のほうを先に視てしまい、順序があべこべになって何だかややこしい。
そのせいではないものの、オリジナル版の出演者では、高島礼子、尾美としのり、草笛光子、竜雷太ぐらいしか知らないのに対し、一時期韓流ドラマに熱を上げていたおかげで、韓国版の方は殆どが既知の顔ぶれといったありさま。肝腎の人物設定や物語の展開は大筋が共通しており、オリジナル(日本)版をほぼ忠実に再現している感じ。ところが、視聴感がまるで異なる。
登場人物=演者;()内は韓国版
・建築家桑野信介=阿部寛(チョ・ジェヒ=チ・ジニ)
・女医早坂夏美=夏川結衣(チャン・ムンジョン=オム・ジョンファ)
・信介の隣人田村みちる=国仲涼子(チョン・ユジン=キム・ソウン)
・信介の事務所員村上英治=塚本高史(パク・ヒョンギュ=ユ・アイン)
・沢崎摩耶=高島礼子(ユン・ガラン=ヤン・ジョンア)
・信介の母桑野育代=草笛光子(カン・ヘジャ=チョン・ヤンジャ)
・夏美の父早坂康雄=竜雷太(チャン・ボンス=キム・ビョンギ)
・副病院長中川良雄=尾美としのり(パク・グァンナム=イ・ムホ)
・信介の妹中川圭子=三浦理恵子(チョ・ユニ=ペ・ミニ)
・中川夫妻の長女ゆみ=平岡映美(パク・イェウォン=?)
・遊び人同業者金田裕之=高知東生(ムン・ソックァン=ユ・テウン)
・みちるの友人中村千鶴=SHEILA(スヨン=チェ・ユニョン)
・英治の恋人吉川沙織=さくら(登場せず)
・棟梁=不破万作(現場監督=イ・ダリョン)
こうして登場人物名を眺めるだけでも、文化がまったく異なることがわかる。元来、「家(氏姓)制度」の歴史的経緯が違うということ。日本では戦後、「家制度」そのものが廃止されたにも拘わらず、夫婦同姓(厳密には「夫婦同氏」とすべきらしい)の原則だけは、何故か未だに維持され続けている。今や世界中で我国のみなのだとか。かといって、夫婦別姓に与するスタンスではないので、誤解なさらぬよう。
具体的には、オリジナル版中川家に相当する韓国版パク(朴?)家にご注目。主人公桑野信介の妹である桑野圭子(旧姓)は、中川家に嫁入りしたため改姓、長女ゆみを含めて全員が中川姓。対する韓国版では、主人公チョ・ジェヒの妹チョ・ユニは、パク家に嫁入りした後もチョ姓のまま。長女イェウォンを含む三人家族のパク家中で唯一チョ姓を名乗る異様な構図になっている。
まぁ、夫婦同姓に慣らされた私奴からすれば異様に映るが、韓国を含むチャイナ文化圏の人々にとっては当たり前のことだから、別に奇異とも何とも感じないのだろう。しかし、文化が違えば生活実態も大きく異なっているのではないか、と言いたいわけ。以下はあくまで国内・韓流・華流ドラマを視ての勝手な想像に過ぎず、間違っていたら御免なさい。
つまり、我国に於いては他家に嫁ぐ場合、一般に嫁ぎ先の姓(苗字)を名乗る。これを“嫁入り”と称して、名実ともに嫁ぎ先家の一員になることを意味する。今はどうか知らないが、他家へ嫁ぐ際、花嫁が実家の両親に「別れの挨拶」をする習慣があった。ところが、華字文化圏では、他家へ嫁いだ後も姓は変わらないし「別れの挨拶」などという儀式(?)もない。因みに、日本語の【嫁入り】に相当する北京語は、【出嫁(嫁に行く)】と表現する。同じ漢字圏でありながら、【出入】の用法があべこべである点が興味深い。
それだけではない。韓流ドラマを視ていると、歴史的に男(父権)社会だったせいか、世継ぎ(男児)を産ませるためだけに嫁を迎えるかのような描写が多い。時代劇ならまだしも、現代劇でも似たようなものだから呆れ果てる。男児に恵まれない嫁など悲惨そのもの。姓が異なるだけに、何時まで経っても家の構成員として認められない。逆に、男児を産んだ嫁(母親)は俄然強くなる。男児を笠に着て権勢を振るい、「家」を危うくする。あな恐ろしや。
余談に堕したが、日韓ドラマの違いを一言で表わせば、「静寂」と「喧噪」でしょうね。同じコメディでも、オリジナル版はエスプリが効いていて思わずニンマリしてしまうとすれば、韓国版はドタバタ喜劇といった風情。腹を抱えて笑えるのは韓国版のほう。でも、とにかく大仰な演技で騒々しい。
『結婚できない男』第1話(関西テレビ;2006年)
韓国版『結婚できない男』第1話(韓国KBS;2009年) - 要会員登録(無料)
http://www.showtime.jp/special/korea/kekkon/
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