同じことを何度も書いて些か恥ずかしいが、鄧麗君さんが世界的な名声を得た国際派歌手ならば、鳳飛飛さんは華字圏限定の地方歌手に過ぎなかろう。だからといって、国際派歌手が全てによいわけではない。地方色豊かな歌(例えば台湾語歌曲や民謡)の場合、むしろ万人受けする歌唱法が却って徒(アダ)となりやすい。この分野では、然しものテレサも鳳飛飛には敵うまい。
余談だが、台湾語の歌は「台語」とパッケージ表記されてある(北京語の歌は「國語」)。歴史的に観て、この“台湾語”は微妙な立場にあるらしい。元来が福建省辺りから移住してきた漢人の言語だそうで、台湾土着民たる高山族(高砂族)の言葉ではない。古の昔は知らないが、戦前は日本語、戦後は北京語が公用語なのだから、台湾における台湾語は常に継子扱いされてきたことになる。
現在、台北等の北部都市部では、日常会話も北京語が主流だとか。そう言えば然る友人の場合、夫婦同士は台湾語、当時小学生だった一人娘とは北京語で会話してましたね。政治的には、大陸反攻を党是とする国民党が北京語派、台湾独立を目指す民進党は台湾語派という色分けでしょうか。高山族の場合、部族間では未だに日本語が共通語という。因みに大陸の共産中国では、「台湾語」を嫌って専ら「閩南語」と表記する。そうした政治的な思惑もあって、「台湾語」の位置づけを巡っては、中台双方に今なお多くの論争があるという。
本題に戻ろう。『鳳飛飛台灣民謠歌謠專輯(五)』(左写真)という音楽帯を持っている。何を隠そう、台湾と言えば真っ先にこのアルバムを思い浮かべるほど、私奴にとっての“宝物”である。これを聴くと、中国でも日本でもない「台湾文化」が、厳として存在することを思い知らされる。なお、「台湾民謡」といっても、日本語でいう「民謡」とは意味合いが違って、官製でない旧い民間曲といった趣なのでややこしい。
百聞は一見にしかず。マイチャンネルからの動画で気が引けますが、まずは視て(聴いて)いただきましょう。
☆ 鳳飛飛『補破網』(1982年)
おおむね明るい曲調が多い日本の「民謡」と比べたら、翳りの濃い歌声と相俟って、なんと物悲しい曲だろう。異国人(つまり私奴)でさえ、強い郷愁に駆られるから不思議だ。
このアルバムからもう一曲。
☆ 鳳飛飛『望郎早歸』
「雨夜花」「望春風」「思想起」などの定番著名曲も遺してくれており、これも悪くないが、個人的には無名の佳曲に興味がいく。ただ、それではあまりにも心許無かろうから、一曲だけ貼っておきましょう。
☆ 鳳飛飛『河邊春夢』
最後に、個人的な好みに基づく次の三曲をどうぞ。
☆ 鳳飛飛『春宵吟』
☆ 鳳飛飛『蝶戀花』
☆ 鳳飛飛『四月望雨』
『蝶戀花』では、曲調に合わせて精一杯可憐に歌っているところが何ともいぢらしい。また『四月望雨』は、最も縁遠いはずの今風なアレンジが、却って奏功した数少ないケースであろう。
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