《 第5話 》 「悪魔の微笑」
【 あらすじ 】 赤星博士がどくろ仮面に誘拐されたことが大々的に報道される。柳木博士は予定されている実験を心配する。政府の田坂が柳木邸を訪れ、HOジョー発爆弾を政府で保管すると決定したと報告し、博士は安心するが、帰り際に田坂は謎の微笑を浮かべるのだった。
赤星博士誘拐を報じる新聞を手に、柳木博士と娘あや子の遣り取り。
あや子 「お父様、赤星の小父様の行方、まだわかりませんの?」
博士 「うむ。困ったもんだよ。これじゃ、お父さんの実験も危険で出来ない。」
あや子 「実験は、あさってでしたわね。」
博士 「ああ、最後の実験だからね。どうも留守の間が心配でならん。」
あや子 胸のペンダントを抱きしめて「そりゃあ大丈夫よ。」
博士 「ん~? まあ安心しているがね。まさかどくろ仮面も、そこまで(ペンダントに秘密が隠されている)は気づかんだろうから。」
あや子 「ええ。万一の場合はあや子、命に賭けても御守りしますわ。」
博士 「うむ、頼むよ。問題は、お父さんの手許にある四個のジョー発爆弾のことだ。一個は今度の実験に使うとして、あとの三個を此処に置いていいのかどうか・・・。」
あや子 「政府の保管委員会は、どういうご意見ですの?」
博士 「まだ結論は出ないらしい。ま、田坂君がいろいろ考えてくれているらしいがね。」
とみ 「先生、田坂さんがお見えになりました。」
あや子 「田坂さん?」
博士 「お~う、ちょうどよかった。さっ、奥の間にお通しして。すぐ行くから。」
とみ 「はい。」
博士 娘に向かって「あ、祝君から何の電報も入らんかね。」
あや子 「ええ。」
博士 「じゃあ、そのうち寄こすさ。どうも彼が居らんと心細いな。」
あや子 父の言葉に同意も否定もせず、ただ微笑むのみ。
これが当時(昭和33年)の良家における会話とすれば、遙かに豊かな暮らしを営む現代人の“言葉遣い”は、決して威張れたものではないでしょう。和服姿の女中とみでさえ、どくろ仮面の手下でありながら、主(あるじ)への献身的な奉公ぶりがなかなか堂に入ってます。
熟々思い起こすに、博士と我が亡父(明治生まれ)の口調がよく似ていることに気づきました。とすると、この頃の男親たるもの、おおむねこうした口調だったのかもしれませんね。
余事ながら、連絡手段が“電報”とは、時代を感じます。
場面替わって今度は祝探偵事務所。松田刑事が訪ねてくる。
松田 「袋君、祝先生から何か連絡はなかったかね。」
五郎八 「それなんですよ、松田さん。飛行機で羽田を出発したっきり、ぜんぜん、うんともすんとも・・・。」
木の実 「五郎八さん、大変よ。」と駆けつける。
繁 「あっ、松田の小父さん、いらっしゃい。」木の実と深々お辞儀。
松田 にっこり「おお、どうしたんだい。二人ともあわてて・・・。」
五郎八 「さては、どくろ仮面でも現れたな~っ。」
繁・木の実、顔を見合わせながら、肩をすぼめて笑うことしきり。
木の実 「五郎八さん、昼間はすごく元気なんだから。」
五郎八 「おいおい、よせよ。大人を冷やかすもんじゃないよ。で、なんだい、大変って。月賦屋かい?」
繁 「黙って玄関へ行ってごらん。うふふ。」
五郎八 「う~ん、おかしいなあ。かつぐんじゃあないのか、いやだよ~。」 松田に「ちょっと失礼。」と断って玄関方向へ。
松田 笑いながら「ああ(どうぞの意)。」
五郎八 階段を降りつつカボ子を発見「あっ、カボ子ちゃん。」
カボ子 「五郎八さん、これ何よ。」と、いきなり新聞を突き出す。
五郎八 新聞を手に「何だよ。ん?あっ、赤星博士の誘拐事件。」
カボ子 「そうよ、意気地なし! それでよくも祝先生のお留守を預かっているわね。どくろ仮面なんかにやられて。あたし、そんな人と結婚してやらない。大っ嫌いっ!!」と言い残し、プイとして去る。
五郎八 「おい、ちょっ、ちょっと待ってくれよ、カボ子ちゃん。」
一部始終を見ていた松田、繁、木の実の三人は大笑い。
松田 「ははは。五郎八名探偵もカボ子ちゃんには弱いね。」
木の実 「男の人って、お嫁さんになってもらうのも大変ね。」
繁 「大きくなったら、ああ(カボ子)なるんじゃないの。」
木の実 「(否定の意で)ん~ん。あたし、きっとやさしいわ。」
繁 「あや子お嬢さんみたいだといいなあ。ねえ、松田の小父さん。」
松田 「そうだね。じゃ、柳木先生の処へ行かなくっちゃね。」
あや子さんが古いタイプの女性とすれば、カボ子さんはさしづめ現代風女性といったところか。しかし、“言葉遣い”なら、今時のギャルなど、カボ子の足下にも及ばないのはミンミンパイパイ(明々白々)。
それより、少なくともこの劇中では、カボ子的先進女性に比し、あや子的古い女性のほうが肯定的に描かれている点に着眼したいですね。新しくて評価の定まらないものより、古くからあって定評を得たほうを信頼する伝統的な価値観が尊重されていた頃ならでこそ成り立つ話。
どうでもいいけど、カボ子さんって変わった御名前ですね。それと繁少年が「あや子お嬢さん」と呼んでいますが、脚本上のミスでしょう。「あや子お姉さん」ならわかりますが、一般に未婚の女性を指して、子供が「お嬢さん」とは表現しないように思います。
再び場面は柳木博士邸。
博士 「じゃあ、残り三個のジョー発爆弾は、政府の金庫に保管するという政府の結論が出たわけですね。」
田坂 「そうです。博士さえお宜しければ明日にでも。」
博士 「そりゃあ有り難いが、しかしこの機密は外部には洩れんでしょうか。」
田坂 「ご安心ください。知っているのは、総理と防衛大臣の外、私たち少数の保管委員会の者たちだけですから。」
博士 「う~む。ありゃあポケット弾と言われるくらい小さい物だからね。君一人でも運べるわけだが・・・。途中がねえ。何しろ、どくろ仮面に狙われていることだし。」
田坂 「その点はご安心ください。このわたくしが、命に代えてお運び申し上げます。」
博士 にっこり「やあ、有り難う。じゃあ明日の午後一時かっきり・・・。あ、いや、夜がいい。夜の七時かっきりにお渡ししましょう。」
田坂 姿勢を正し「畏まりました。さっそくこのことを政府に報告しておきます。」
博士 「お願いします。」
田坂 「はっ。では明日七時。失礼致しました。」と席を立つ。田坂の見送りに立ち上がろうとする博士を制し「あっ、どうぞそのまま。」
博士 「はは。そうですか。」と、上げかけた腰を再び下ろす。
玄関を出て、誰もいないところで田坂は、不敵な微笑を洩らす。
如何ですか。「演技」とはいえ、田坂はどくろ仮面の手下ですよ。女中とみといい、役人田坂といい、この言葉遣い、この立ち居振る舞い。博士やみんなが彼らを信じて疑わないのも無理はありませんね。
ここなんですよ。口汚い言葉遣いや育ちを疑われる振る舞いがあれば、そこで直ぐに素性を見抜けますが、心内だけは誰にも読めません。「敵」は、この外見上の“嘘”を作って錯覚させ、善良なる人々を騙すわけです。
さすがに月光仮面、祝探偵らは、ちょっとした不自然さを見逃さず、彼らの正体を暴いていきます。
ありがとうございました。
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