《 第6話 》 「捕えてみれば」
【 あらすじ 】 赤星博士が誘拐されたことを知ったカボ子は五郎八のふがいなさを叱る。五郎八は偶然現われたどくろ仮面を捕らえるが…。夜遅くまで仕事を続ける柳木博士は女中のとみから水を貰う。しかし、そのコップには何かが入れられていた…。
祝探偵事務所前、不在をいいことに五郎八愛用スクーターを跨いで得意げな繁少年に、くわえ煙草の山本記者が声をかける。
山本 「よお~っ、坊や。」
繁 「あっ、山本さん、いらっしゃい。」とスクーター上でお辞儀。
山本 「坊や。今日は小父さん、とってもいいニュースを持ってきたぞお。」
繁 「へえ~。どんなこと? 山本さん。」
山本 「ん~? へへへ。ま、家へ入ろう、さ、さ。」
繁 「うん。」
山本 歩を進めながら「袋君は?」
繁 「カボ子ちゃんに叱られに行ったよ。」
山本 「カボ子ちゃん?」
繁 「五郎八さんのお嫁さんになる人だよ。」
山本 「ほ~う、そう。」
自分が繁と同年代からか、つい繁の目を通して視聴してしまうのですが、月光仮面、祝探偵や松田刑事を“小父さん”と呼んでも、この山本記者には、単に“山本さん”ですね。逆に山本のほうが自分のことを“小父さん”と称しています。一見して二十歳代でしょうか。“お兄さん”でもおかしくないのに。未熟な“お兄さん”より、経験豊富な“小父さん”のほうが、男として信頼されるという価値判断ですかね。
どうでもいいけど、山本さんのくわえ煙草、羨ましいなあ。いまや、屋外域の路上ですら禁煙区が広がり、喫煙者は完全な日陰者の扱いを受ける被差別者に落ちぶれ果ててしまいました。
それにしても、劇中では喫煙者が多いですね。祝探偵、柳木博士、山本記者。正義の男衆はみんなヘビースモーカーであります。祝探偵事務所の応接間に置かれたピー缶が懐かしい。この頃発売されたショート・ホープを吸ってる新しがり屋の人も居ます(第一部以外で)。
不思議なことに、どくろ仮面をはじめ悪党一味に喫煙者はおりません。まあ、お面や黒覆面をつけたまま、煙草は吸えませんからね、
さて、五郎八迷探偵の愛車は、ラビット・スクーターのようです。中二時の担任教諭(体育科)がこれでした。大分市南春日町のご自宅から学校までを颯爽と乗っておられました。先生がお通りになる際、我々生徒は歩を止めてお車に正対し、学帽を取って「おはようございます」とご挨拶申し上げたものです。下校時なら「先生、さようなら。」と。先生は車上で軽い会釈を返されるだけ。師弟の間には厳然とした一線があったのです。その先生も、十年ほど前にお亡くなりになりました。
ラビット・スクーターは、陸軍戦闘機「隼」で有名な中島飛行機の流れをくむ富士産業(富士重工)の製品らしいです。知りませんでした。
屋外某所でのカボ子と五郎八の会話。
カボ子 「何よ、今日までにただの一回だって自分の手で犯人を捕まえた事なんてないじゃないのよ。」
五郎八 「そう言っちゃねえ。」
カボ子 「じゃあ、あるう~?」
五郎八 「ないけどさあ。逢う度に説教されたんじゃ、俺だっていい加減頭に来るよ~ん。」
カボ子 にっこり「あら、怒った?」
五郎八 「う~ん。怒りゃしないけどさあ、もう少し優しくしてくれてもいいと思うんだよ。」
カボ子 「そりゃいいけど、そんな事すれば、あんた、すぐ付け上がるじゃないの~。うっふん。」
五郎八 「そう言っちゃねえ。」
カボ子 キッとして「何かといえば、そう言っちゃねえ。そんな五郎八さん、嫌いっ!!」
五郎八 「おい、カボ子ちゃん、それはひどいよ。俺だってプライドがあるよ~ん。」
カボ子 「そう。それじゃあ、どくろ仮面はあんたの手で捕まえてみせてよ。」
五郎八 「おう、やるとも、俺はやるよ。」と自分の胸をたたく。
カボ子 「じゃ、どくろ仮面を捕まえたら結婚の話をすることにしましょうね。」と言いつつ、しゃなりしゃなり去ろうとする。
このあと、どくろ仮面の衣装を纏ったサンドヰッチマンを間違えて取り押さえるドタバタ劇があります。その時の「やれやれ、またしくじったのね。」といったカボ子の表情が堪りません。
この頃から、既に「女性上位」と呼ばれる世の中になりつつあったのでしょうか。二人の会話からそんなことを思い浮かべました。
ところでこの撮影現場、建物等の景観は変わってしまったものの、今住んでいる自分の家の傍に地形が酷似しています。仮にそうであるなら、昔の渋谷・新宿の区界辺りは、都会とは思えない田舎じみた光景だったのですね。
繁と木の実に、祝探偵からの手紙を読み聞かせる山本記者。
山本 「いいかい、ここからが大切なんだよ。う~んと、『もし私の旅行が予定より遅れるようなことがあっても、決して悲観せずに勉強に励んでください。柳木博士の身がとっても心配ですが、それは私が居なくてもきっと神様がお守りくださるに違いない。』ねえ。『当分忙しいので、手紙はあまり出せないと思うが、五郎八君と協力して、しっかりと留守を守ってください。』ねえ、わかった?」
繁・木の実 元気よく「はい。」
木の実 「だけど、あたしたちがお手紙出す時は、どうすればいいの?」
繁 「そうだ、小父さん。祝先生の住所を教えてください。」
山本 「う~む。それがねえ、う~む、まだわからないんだよ。この手紙も飛行機の中で書いたらしいしねえ。インドに着いてからも、お仕事の関係で居所をはっきりさせられないんじゃないのかなあ。」
木の実 「つまんないわ。」
繁 「でも仕方がないよ。探偵のお仕事だから・・・。」
山本 「そうそうそうそう。その意気だ。」
五郎八がしょぼんとして帰ってくる。
木の実 「あっ、五郎八さんどうしたの? またカボ子姉ちゃんに叱られたのね。」
五郎八 「違うよ、どくろ仮面と間違えちゃった。うっ。」と言って口を押さえる。
山本 真顔で「えっ、何だって?」
五郎八 「あ、いや別に・・・。」子供二人に向かって「それより、柳木先生のほうは大丈夫かね?」
木の実 「それが、何にも言ってこないわ。」
五郎八 腕組みして「う~む。嵐の前の静けさか。」
繁少年、山本記者をしっかり“小父さん”と呼んでますね。失礼致しました。しかし、なにゆゑ、カボ子さんだけが“ちゃん”と呼ばれるのでしょう。
ちゃん
[接尾]《「さん」の音変化》
人名、または、人を表す名詞に付けて、親しみを込めて呼ぶときなどに用いる。
なるほど、「親しみを込めて」ですか。だとすれば、五郎八迷探偵にとってのカボ子さんは、頼りない己を一念発起させてくれる唯一無二の良き理解者ということかもしれません。カボ子さんとしても、将来の伴侶は頼りがいのある男でなくてはならない、との並々ならぬ信念がおありなのでしょう。
ありがとうございました。
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