我が家のテレビは、昭和三十四年三月に入ったと記憶します。両親が皇太子殿下(今上陛下)御成婚を視聴するために月賦で購入したようです。それまで、「光っちゃん(刎頚の友)のところで勉強する」などと偽って、「大相撲」や「月光仮面」のテレビを観に行ってました。もちろん、双方の母親は「ウソ」を知ってたはずですが、それを追及されたことは一度もありません。他人様の御厚意に甘え、小さくなりながらもテレビを観させていただいてました。
我が家にテレビが来たのは、早い方でした。今度は、同じ大分市営住宅内の子供たちが我が家へ押し寄せて来ました。母親は、茶菓子さえ振舞って歓待していました。まだまだ「互助・互譲・互恵の精神」が色濃く残っていた「古き佳き時代」だったんです。
反面、茶の間の団欒からは次第に遠ざかって行きました。ラヂオなら聞き流すこともできますが、テレビ時代に入って家族の会話がなかなか成立しません。確か「テレビは二時間、午後八時まで」と親から決められていたように思います。「一億総白痴化」「無責任時代」などの言葉が生まれたのはその後のことで、昭和四十年代に入ってからでしょうか。
そうそう、小津安二郎監督「お早よう」(昭和三十四年)もテレビ購入を巡る映画でした。当時と言えば小五~小六です。ニックネームに「(片目の)ジャック」「丹下左膳」「豹(ジャガー)」を頂戴してました。いずれも身体的特徴からのネーミングで、人によっては「いじめ」の類かもしれません。しかし、「強者(つわもの)」と級友が認めてくれた証として、むしろ誇らしげな感情を抱いたものです。関東に移り住んで高校・大学時代は、「(ゲゲゲの)鬼太郎」へと変貌を遂げました。渾名の由縁は、どこに居ようとちっとも変わりませんね。
ニックネーム「豹(ジャガー)」の元となったTV映画をご紹介します。
KRTV(現TBS)連続放送劇映画「豹(ジャガー)の眼」
放映時期;昭和三十四年七月~昭和三十五年三月
スタッフ;船床定男(監督)、高垣眸(原作)、小川寛興(音楽)
主題歌;「豹の眼」(三船浩歌)、「少女錦華の歌」(近藤圭子歌)
配役;モリー(大瀬康一)、張爺(高塔正康)、錦華(近藤圭子)、ジャガー(天津敏)、龍婢(津田まり子)、王大尽(三田隆)、三郎兵衛(海野かつを)、船長(野口元夫)、殺し屋ジョー(牧冬吉)
概要;昭和初期の冒険小説が原作。ジンギスカンの秘宝を探る鍵、「フビライの矢」「オルコンの弓」「ダッタンの的」を巡る争奪戦。ジンギスカンの子孫モリー。青竜党の首領に祭りあげられた清王朝の末裔錦華。悪漢一味を率いる片目の男は、豹(ジャガー)のお面をつけて現れる。そこへ、正義の豹(ジャガー)が・・・。舞台を日本に移すと、白頭巾白装束姿の正義の人「笹りんどう」という謎の人物まで、現世に登場する。
劇の構成は、北村寿夫原作の「紅孔雀」とそっくりです。主人公は、黒田杜夫(もりお)君が正式な姓名でした。
珍しく少年があまり出てこない子供向けTV映画ではありました。ただ、この劇で注目したいのは、偽物の豹(ジャガー)のほうが正義である点です。これまでの子供向け映画や読物は、「善」と「悪」がはっきりわかりました。その後、推理小説の影響があってか、テクニックに溺れ始めたのか知りませんが、意外な人物が犯人や悪人に仕立てられていったような気がします。子供にとって、複雑になるほどに理解し難くなるのは自明でしょうに。
2007年3月9日(金)の記事
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