カンタータ第1番
《輝く曙の明星のいと美しきかな》
-受胎告知記念日(3月25日)用-
BWV1を戴く晴れがましいカンタータで、大好きな曲である。3月25日を受胎(告知)日とすることに関し、クリスマス(イエス降誕)から単純に逆算しただけではないか、と異教徒は邪推したくなる。まして「処女」のマリアから生まれたなんて俄かに信じ難いし、12月25日のクリスマスも、地域によって4月・7月・8月などマチマチだったのを、3世紀頃、西方東方両正教会が協議してこの日(12月25日)に決めたとも聞き及ぶ。けれども、信徒にとっては、「事実」か否かは問題でなく、ただ信じること(信仰心)のみが重要なのだ。
くだらない「私見」だけでは心許ないので、リヒター盤礒山雅氏の解説文をカンニングしておこう。
復活節を間近に控えた時期にやってくる、受胎告知の祝日。カンタータ演奏をはじめよろず派手なことの粛せられる四旬節の中でも、この日に限っては喜びの調べが高らかに奏でられる。1725年の当日(3月25日)にライプツィヒの人々は、キリストをさし昇る曙の明星に喩えたバッハの明るい新作に接し、文字通り、目の覚めるような思いを味わったことだろう。このカンタータは、1724年6月から続けられてきたコラールカンタータの創作に、一旦ピリオドを打つものであった。またこの作品は、19世紀半ばに旧バッハ全集の出版が開始されたとき、記念すべき第1巻の劈頭を飾るべく選ばれている。
曲は、フィリップ・ニコライ(1556-1608)の爽やかなコラールを両端楽曲で引用する。大コラールは、一対のヴァイオリン独奏に加えてホルンを響かせた、輝かしくも牧歌的な音楽。2曲のアリアも踊るようなリズムを持ち、曲の曇りない明るさを引き立てている。
レーマン盤(1952年モノラル録音)
指揮;フリッツ・レーマン
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
ベルリンモテット合唱団
グンティルト・ウェーバー(ソプラノ)
ヘルムート・クレブス(テノール)
ヘルマン・シェイ(バス)
当時の標準的な演奏スタイル。大編成オーケストラのゆったりしたテンポに合わせて大音声を張り上げて歌っていた。指揮者のレーマン(1904-1956)はマンハイム生まれで戦前から指揮活動をしていた人。我国での知名度は低いが、伝統墨守の無難で地味な音楽作りを特徴とする。
リヒター盤(1968年録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
エディット・マティス(ソプラノ)
エルンスト・ヘフリガー(テノール)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バス)
レーマン盤に比べると、悪くはないが何処か実験的でせかせかした印象を否めない。年齢的に若手ではないにせよ、伝統に縛られない新境地を拓きたい野心ありありの演奏だ。しかし、この後直ぐロマン的傾向に走り、演奏スタイルを崩したうえ、そのまま1981年に亡くなっている。結局、彼のベスト盤を個人的に選ぶとすれば、デビュー盤と言っていい「マタイ受難曲(1959年録音)」であったのが、まったく皮肉なことだ。
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