カンタータ第4番
《キリストは死の縄目につながれたり》
-復活節日曜日(第一祝日)用-
青年期のカンタータの一つ。1707/08年にミュールハウゼンで成立したと思われるが、1707年の復活節にミュールハウゼンのオルガニストに応募するために作曲されたという説が正しければ、バッハの最初のカンタータ(22歳の作)ということになる。
しかし音楽は、きわめて密度の高いもの。宗教改革者マルティン・ルターのコラールが全節そのまま歌詞に採られ、厳粛で緊張感に溢れた音楽によって、復活とその欠かせぬ前提である受難への考察を繰り広げる。弦のシンフォニアによって導入される7つの楽章は、中世に由来をもつルターのコラール旋律の、多彩な変奏。その意味でこれは、リューネブルク時代に試みられたオルガン用コラールパルティータに近い。第2節における死の国、第3節における「死の死」、第4節における死と生命の争い、第5節における十字架の犠牲など、絵画的な描写もきわめて精彩に富んでいる。
-以上、後述リヒター盤ライナーノーツ(礒山雅氏)より-
レーマン盤(1950年/於;ゲッチンゲン・ヨハネス教会/モノラル録音)
指揮;フリッツ・レーマン
バッハ祝祭管弦楽団(1950年)
国立フランクフルト音楽学校合唱団
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
ヘルムート・クレブス(テノール)
音源はアナログLP盤か。CD盤を持っているが、音割れもなくアナログより聴き易い。日頃の愛聴盤は、下記のリヒター盤。愛聴盤と比べるとテノール独唱(第4曲)があったりしてかなり違った印象がある。悪くはないが、少し喰い足りない気がする。
リヒター盤(1968年録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バス)
やや速めのテンポからくる適度の緊張感が堪らない。レーマン盤もフィッシャー=ディースカウが歌っている。若くて瑞々しい声が捨て難いが、円熟味でこちらを採る。擦り切れるほど聴きこんでいるので、この演奏以外のディスクは要らない。宗教改革の祖ルター作の終結コラールが秀逸、身も心も洗われる。
余談ながら、マルティン・ルター(1483-1546)といえば、バッハ&ワグナーの足跡を辿ってドイツ(旧東独)を訪ねた際。偶々ゆかりのアイゼナハとウィッテンブルクにも立ち寄った。アイゼナハはバッハの生地で、ここの山頂にあるワルトブルク古城に籠って聖書のドイツ語訳を執筆したとか。ルターが悪魔にインク瓶を投げつけて出来たとされる伝説の”インク染み”が残されていた。さらに妙な因縁があって、この城はワグナー歌劇『タンホイザー』の舞台にもなっている。
ヴィッテンベルクは、ドイツ宗教改革の”聖地”である。そのためか、現在では市の中央国鉄駅名も「Lutherstadt Wittenberg」とルターの名が冠せられている。。ヴィッテンベルク大学聖堂の扉に、ルターが貼ったとされる『95ヶ条の論題』がそのまま残っていたが、おそらく観光用レプリカだろう。世界史的第一級文献が、野ざらしのまま放置してあるはずもない。
東西統一直後の3月だったが、旧東独には旧西独にない”懐かしさ”が感じられた。何故か? 暖房用「石炭」の存在である。'90年代初頭のこととて、もはや過去の遺物と思いきや、石炭が未だ”現役”として使われていたというカルチャーショックを味わったわけ。
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