飽くまで個人的な好みに属する領域ながら、昔の映画は滋味深かったように思う。ここで言う「昔」とは、映像娯楽の王座がテレビに取って代わられる以前、つまり凡そ昭和30年代前半(1950年代)頃までを指す。当然ながら、テレビなどなかった戦前・戦時中も含む。なお、邦画各社がテレビ界へ進出して経営拡大に走るのと同時に、映画産業自体の衰退を招来してしまったのだから歴史とは皮肉なものである。
ただ、「滋味深い」と一口に言っても、現代ならテレビが代用する面白可笑しいだけのお気楽ドラマも含めて多岐にわたっており、総てを佳しとするつもりはない。しかし、今では二流・三流作として忘れ去られたような映画の中にも、映像技術こそ今より劣るものの、制作者の作品に対する愛情を感じさせてくれる佳作は数多い。そこで、所有する邦画のうち気に入っている作品を挙げておく。(順不同)
1.元禄忠臣蔵(昭和16・17年;松竹)
溝口健二演出、真山青果原作、原健一郎ほか脚色、深井史郎音楽
河原崎長十郎、中村翫右衛門、市川右太衛門、三浦光子、高峰三枝子
2.名刀美女丸(昭和20年;松竹)
溝口健二演出、川口松太郎脚本
花柳章太郎、山田五十鈴、伊志井寬、柳永二朗、大矢市次郎
3.山椒大夫(昭和29年;大映)
溝口健二監督、森鴎外原作、八尋不二ほか脚本、早坂文雄音楽
田中絹代、花柳喜章、香川京子、進藤英太郎、菅井一郎、浪花千栄子
4.虎の尾を踏む男たち(昭和20年;東宝)
黒澤明監督・脚本、服部正音楽
大河内傳次郎、藤田進、榎本健一、森雅之、志村喬
5.羅生門(昭和25年;大映)
黒澤明監督・脚本、芥川龍之介原作、早坂文雄音楽
三船敏郎、京マチ子、志村喬、森雅之、千秋実、加東大介
6.青春銭形平次(昭和28年;東宝)
市川崑監督、野村胡堂原案、黛敏郎音楽
大谷友右衛門、伊藤雄之助、杉葉子、小林桂樹、山形勲
7.億万長者(昭和29年;新東宝)
市川崑監督・脚本、團伊玖磨音楽
木村功、久我美子、山田五十鈴、伊藤雄之助、左幸子
8.彼岸花(昭和33年;松竹)
小津安二郎監督、里見弴原作、野田高梧ほか脚本、斎藤高順音楽
佐分利信、田中絹代、有馬稲子、佐田啓二、桑野みゆき、笠智衆
9.お早よう(昭和34年;松竹)
小津安二郎監督、野田高梧ほか脚本、黛敏郎音楽
佐田啓二、久我美子、笠智衆、三宅邦子、設楽幸嗣、島津雅彦
10.二十四の瞳(昭和29年;松竹)
木下惠介監督・脚本、壺井栄原作、木下忠司音楽
高峰秀子、月丘夢路、田村高広、小林トシ子、笠智衆
11.君の名は三部作(昭和28~29年;松竹)
大庭秀雄監督、菊田一夫原作、柳井隆雄脚本、古関祐而音楽
佐田啓二、岸恵子、淡島千景、月丘夢路、川喜多雄二、市川春代
12.暖き風(昭和18年;松竹)
大庭秀雄監督、柳井隆雄脚本、朝比奈昇音楽
風見章子、佐分利信、志村喬、真山くみ子
13.獄門帳(昭和30年;松竹)
大曽根辰夫監督、沙羅双樹原作、井手雅人脚本、鈴木静一音楽
笠智衆、鶴田浩二、香川京子、岡田英次、近衛十四郎
14.黄色いからす(昭和32年;松竹)
五所平之助監督、館岡謙之助脚本、芥川也寸志音楽
淡島千景、伊藤雄之助、設楽幸嗣、田中絹代、久我美子、飯田蝶子
15.宮本武蔵二刀流開眼(昭和18年;大映)
伊藤大輔演出・脚色、吉川英治原作、佐藤顕雄音楽
片岡千恵蔵、月形龍之介、原健作、香川良介、相馬千恵子、市川春代
16.刃傷未遂(昭和32年;大映)
加戸敏監督、林不忘原作、伊藤大輔脚本、鈴木静一音楽
長谷川一夫、勝新太郎、岡田茉莉子、柳永二郎、黒川弥太郎、山茶花究
17.警察日記(昭和30年;日活)
久松静児監督、伊藤永之助原作、井手俊郎脚本、團伊玖磨音楽
森重久弥、三国連太郎、伊藤雄之助、宍戸錠、杉村春子、二木てるみ
18.ぶっつけ本番(昭和33年;東宝)
佐伯幸三監督、水野肇ほか原作、笠原良三脚本、神津善行音楽
フランキー堺、淡路恵子、小沢栄太郎、佐野周二、仲代達矢
19.日本誕生(昭和34年;東宝)
稲垣浩監督、八住利雄ほか脚本、伊福部昭音楽
三船敏郎、中村雁治郎、田中絹代、原節子、志村喬、杉村春子
20.血槍富士(昭和30年;東映)
内田吐夢監督、井上金太郎原作、八尋不二ほか脚色、小杉太一郎音楽
片岡千恵蔵、月形龍之介、喜多川千鶴、田代百合子、加東大介
21.ちいさこべ(昭和37年;東映)
田坂具隆監督・脚本、山本周五郎原作、伊福部昭音楽
中村錦之助、江利チエミ、中村賀津雄、桜町弘子、東千代之介
「21」を除き、図らずも注文どおり1950年代以前の映画ばかりに落ち着いた。なにしろ古の映画とて生まれる前かせいぜい小学生時分に過ぎず、初公開時にほぼリアルタイムで観たのは「9」「10」「14」「19」のみ、ほかは概ね現役引退(2005年)後に観賞したものばかり。また、類別し難いほど多岐にわたるため一概に特徴付けられない。けれども、強いて言挙げするなら今時の【これ見よがし】の見た目派手な演出に比べると、至って地味ながら「地味」は「滋味」に通じ、観ていて胸が熱くなる情感豊かな作品が多い気がする。まぁ、そんなのが好きなのだから当然か。それに、人間離れした全知全能型完全無欠の主人公が多い当世ドラマと違い、主人公と言えども時には失敗するし苦悩したりもする。そこに真実の【人間味】が存するわけであって、それが共感や感動を呼び覚ます起爆剤となっているのは間違いあるまい。
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