前稿『水戸黄門』では、第一部に関してしか触れなかった。だがこの際、東野版第二部以降のなかから、特に気に入っている放送回を抜粋して書いてみよう。
・第二部第15話山形「叱られた黄門様」(昭和46年1月4日放送)
監督;内出好吉、脚本;稲垣俊
ゲスト出演者;加藤武、松原智恵子、長谷川哲夫、笠置シヅ子、野口元夫、矢野宣
物語の本筋は、山形郡代(加藤武)の不正悪行を暴いて懲らしめる話。だが題名にあるとおり、黄門さまが米俵に腰掛けて百姓家婆さん(笠置シヅ子)に叱られ、助さん(杉良太郎)八兵衛(高橋元太郎)ともどもコキ使われる場面が修身教科書的で気に入っている。
お婆「このクソ爺、米俵の上に腰掛けおって・・・。
米という字は、八十八と書く。
それだけ手間掛けてお天道様からお口に授かる有り難いものじゃ。
ウヌらこれを頂かないでどうして生きるだ。
この辺りの者は、生まれたばかりのガキでも、それぐらいのことは知っとるわ。」
黄門「う~む、そうか。いや、ついうっかりしとった、すまぬ、ワシが悪かった。」
お婆「謝るのはお婆じゃない、お米さまじゃ。」
このあと一行は、薪割り、風呂焚き、水汲みなどをさせられるが、慣れないせいで腰がふらつくサマが滑稽。おのれの子供時分が思い出されて懐かしい。薪割りや水汲みは苦手だったけど、火吹き竹でフウフウやる風呂焚きや飯釜炊きは大好きだったなぁ。
・第二部第25話鳥取「黄門様の子守唄」(昭和46年3月15日放送)
監督;石川義寛、脚本;窪田篤人
ゲスト出演者;宮園純子、信欣三、飯沼慧、片山明彦、不破潤
この回はなぜか欠番扱いになっていて、テレビでは(再)放送されない。しかし、DVD版には収録されている。第三部以降レギュラー霞のお新役宮園純子が、ここでは兄を獄門台に送られて黄門一行を逆恨みするお絹役を演じている。
物語は、行き倒れた女に乳飲み子を託された格さん(横内正)ら黄門一行が、祖父に当たる鳥取の大店菊屋伊右ヱ門(信欣三)の許へ無事届けるという、ただそれだけの話。そこへ、黄門一行を狙うお絹一派と、菊屋の跡目相続を巡って乳飲み子を殺害せんとする中番頭(片山明彦)の陰謀が絡む。場所は不明だが主にロケ撮影、土地の人々の人情も窺い知れるので採り上げた。特に不都合な台詞や場面が出て来るわけでなし、なにゆゑの欠番なのか、理解に苦しむ。
・第二部第29話福岡「にせ黄門現わる」(昭和46年4月12日放送)
監督;石川義寛、脚本;大西信行
ゲスト出演者;大原麗子、名和宏、服部妙子、本郷淳、梅津栄、Wけんじ
“にせ黄門”物の中では、本作が最も手が込んでいて面白い。物語は、黄門一行(黄門さま、格さん、弥七)が、久留米藩家老の娘弥生(大原麗子)の要請で久留米へ向かう途中、福岡の旅籠でニセ黄門一行(梅津栄、Wけんじ)と同宿になる。更に同宿但馬藩家臣の娘七恵(服部妙子)と付き人(本郷淳)が仇討の相手を見つけるも当地福岡藩で何故か許しが出ず、ニセ黄門とは知らずに窮状を訴え出る。これを漏れ聞いたホンモノの黄門一行が助力に走るという話。
厭がるニセ黄門に代わってホンモノの黄門さまが奉行所へ出向くところがミソ。七恵と弥生双方への刺客が、それぞれ相手を取り違えて襲って来る趣向など、物語が込み入っている。本作のニセ黄門は意外に謙虚で、越後の縮緬問屋隠居光右衛門を騙るだけで一度も水戸光圀とは名乗っていない。同宿を知ったホンモノの黄門さまが、宿帳記帳に困惑して咄嗟に越前の呉服屋“圀右衛門”と書き改めるところが愉快。
なお、本作に限らず、黄門さま(東野英治郎)が度々筆を執るシーンが出て来るが、代筆でなく自ら書いているのがはっきり判る。しかも、かなりの達筆と見受けた。
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