前稿『鬼平犯科帳』とほぼ同時期に登場したのが、『水戸黄門』(TBS系;昭和44年)である。以後、同じ放送枠で『大岡越前』(TBS系;昭和45年)と交互に放送され、ともに今日まで続く長寿番組となった。たまたま松下電器(商標「ナショナル」;現「パナソニック」)がスポンサーだったことから、当時の企業主松下幸之助の意向が強く反映しているとされる。ウィキペディアによると、その意向とは
・世のため、人のため、老若男女を問わない番組
・.「明るいナショナル」の企業イメージにふさわしい番組
なのだとか。「用心棒-」は総じて暗い印象だし「鬼平-」は濡れ場もあってとても子供に見せられないが、こちらはなるほど明朗快活であって、家族ぐるみで愉しめる。また、黄門さま(東野英治郎)の台詞に「世のため人のため」「子供は国の宝」といった言葉が頻出する。更に戦前の【教育勅語】に則った修身教科書(戦後の「倫理道徳」では断じてない)にでも出てきそうな、教訓めいた話が多いのも特徴の一つ。
東野英治郎版は第一部から第十三部(昭和58年)まで。以降、西村晃(第十四~廿一部)、佐野浅夫(第廿二~廿八部)、石坂浩二(第廿九・第三十部)、里見浩太朗(第三十一~第四十三部)と引き継がれ、連続ドラマとしては2011年に終了したが、スペシャル版なら昨年も放送されて継続中である。なお、東野版以外の映像を保有してないし、他作は垣間見たことがある程度なので、本稿は東野版限定であることをお断りしておく。
この東野版だけでも十五年に渡る全十三部三百八十一話の大作だけに、多岐に及ぶと錯覚しがちだが、ある程度物語がパターン化されていて、その多くが“使い回し”に過ぎない。ゆゑに第二部以降、放送を重ねるごとに陳腐化して行くのも仕方あるまい。
第一部を例に、代表的な類型を挙げると次のごとし。
・仇討物
第5話江尻「血槍の弥平」(ハナ肇、馬淵晴子、名和宏、汐路章)
・ニセ黄門物
第11話伊賀「二人の黄門さま」(桜井センリ、石橋エータロー、安田伸、服部妙子)
・『水戸黄門』の劇中劇物
第23話高山「初春役者騒動記」(島かおり、平凡太郎、桑山正一、遠藤辰雄、谷幹一)
・「そっくりさん」物
第15話今治「わしは天下の風呂番だ」(岩井友見、長谷川哲夫、上田吉二郎、近藤洋介)
格さん(横内正)の許婚者深雪(岩井友見)のそっくりさん登場。第二部以降、黄門さま、格さん、風車の弥七(中谷一郎)、うっかり八兵衛(高橋元太郎)なども。(全て二役)
・親子涙の対面物
第10話松坂「母恋い馬子唄」(雷門ケン坊、千之赫子、尾崎奈々)
・御家騒動物
第18話津山「じゃじゃ馬ならし」(高田美和、浜畑賢吉、笠置シヅ子、武藤英司)
・忠君愛国物
第19話湊川「どっこい生きてた」(大辻伺郎、桜町弘子、月形龍之介、吉田義夫)
映画版黄門さま(月形龍之介)が出演。楠木正成の石碑を建てる話だが、史実ではない。見方を変えれば、夫婦愛を描いた作品と見なすことも出来て気に入っている。
・「王子と乞食」物(一時的な身分の取り替え)
第4話三島「消えた花嫁」(鮎川いづみ、十朱久雄、円山栄子)
・友情物
第6話藤枝「暁を駆ける」(竹脇無我、松岡きっこ、神田隆、明石潮、荒木雅子)
・親子愛物
第20話鯖江「父を尋ねて」(大友柳太朗、河村有紀、永井智雄、山本麟一)
・武士道物
第21話高遠「子の刻登城」(中村竹弥、亀井光代、中村孝雄)
【教育勅語】の「徳目」に照らし合わせて視ると面白いかもしれない。
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