結束信二のTV時代劇代表作は、「用心棒シリーズ」(NET系;昭和42-44年)だろう。
・第一作『俺は用心棒』
・第二作『待っていた用心棒』
・第三作『帰ってきた用心棒』
・第四作『用心棒シリーズ俺は用心棒』
第三作のみ未見(但し、来月よりCS218東映チャンネルで再放送予定とか)。他の作品も全話を網羅したわけではないが、おおよその特徴なら把握している。当時、学生でまだ親許に居た関係なのか、何れもリアルタイムで視た記憶がない。ウィキペディアによると、放送時間帯が毎週月曜20時台とある。学生身分ならカネがなくともヒマはあったろうし、テレビ自体を視なかったはずはない。多分、裏番組に面白可笑しいモノがあって。そちらを視ていたのだろう。大人に成り立ての頃だから、“泣かせるドラマ”に関心がないのも道理である。
どうでもいいけど、映画版『俺は用心棒』(東横=東映の前身;昭和25年)というのもあるんですね。監督;稲垣浩、脚本;伊丹万作、音楽;伊福部昭、主演;片岡千恵蔵、月形龍之介の豪華な顔ぶれである。この映画を観たわけではないので判然としないが、TV版はひょっとしてこの映画をモデルにしたものかもしれない。
以前、昔の映画・TVドラマを「家族的」と評したことがあった。結束信二脚本に成るTV時代劇にも同じことが言える。番組名を挙げると、この「用心棒シリーズ」のほか『新選組血風録』(NET;昭和40年)、『天を斬る』(NET;昭和44年)、『花のお江戸のすごい奴』(関西テレ;昭和44年)、『燃えよ剣』(NET;昭和45年)、『軍兵衛目安箱』(NET;昭和46年)など。監督;河野寿一、佐々木康。音楽;渡辺岳夫。主演;栗塚旭、島田順司、左右田一平。毎度お馴染みの顔ぶれだから、どれも似た作風に見えて当たり前、違って見えるほうがおかしい。
このように、気心の知れた仲間同士が寄り合う制作スタイルが、旧き佳き時代の家族的雰囲気を醸し出し、演技を演技と見抜かれない自然な所作が可能だったのだと思う。これこそ制作共同体(ゲマインシャフト)と呼ぶにふさわしい我国独自の組織形態だったのだ。それも有機的に機能してはじめて成し得るホンモノの【職人芸】である。
渡辺岳夫の音楽がまた素晴らしい。主題歌はどれも軍歌調、劇中音楽も後年のTV時代劇にありがちな今風ポップス調でなく、古びたクラシック調なのがよい。今時のポップス曲を否定するつもりはないが、時代劇にはやはり似合わない。昨今の弛緩しきった微温湯時代劇に比べると、かなり緊張する。それもこれも、渡辺岳夫の音楽的効果に因るところが大きい。
脇役陣では、小田部通麿、西田良、香月凉二のトリオが好い味出している。このうち小田部通麿は、強面のせいか悪役が多かった人だ。関西舞台のドラマばかりを多く視過ぎ、関西弁を流暢に操っているのでてっきり関西人と思いきや、福岡県柳川出身の同県人とは知らなかった。俳優になる前、兵役復員後は少年院の教官だったらしい。お寺の息子として生まれ、俳優業の傍ら京都市北区誠心寺の住職だったことなど、全く知らなかった。
ウィキペディア「小田部通麿の項」に次のような記述がある。
小田部がレギュラーに起用された脚本全てを執筆した結束信二が1987年に死去した。結束が生前に「小田部さんがお坊さんになったので葬式は小田部さんに」と遺言していたこともあり、葬式では舞台稽古の合間を縫って駆けつけた小田部がお経を涙声で読み上げ、結束信二の墓も小田部が住職を務める誠心寺に存在する。
これこそ、涙なしには語れない正真正銘の【浪花節的実話】と言えまいか。
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