前稿でも書いたように、1986年(昭和61年;民国暦75年)から六年間ほど、台湾を訪れなかった空白期がある。ゆゑに、「リアルタイム」では聴いたことがない曲ばかり。概ね再訪台した1993年か1994年に買い集めた音楽メディアで知った次第である。いやいや、空白期間中、シンガポールやマレーシアで買った「台湾ポップス」のCDも、少しはある。
こんな頼りないありさまだから、1986年~1989年の曲を《1980年代後期》として纏めて採り上げる。日本の1986年は、テレサ・テン『時の流れに身をまかせ(我只在乎你)』が流行った。
輕輕揮揮手(1986年)
by 沈雁(ちぇん・いぇん)
“絶世の美女”を名乗るアイドル(偶像)系歌手沈雁さんが、最後にリリースしたアルバム『四季』のB面第五曲。つまり、歌手生活最後の曲に当たる。引退後はアメリカへ移民し、ニューヨークで生花店を経営しているとか。曲名は【軽く手を振る】といった意味らしいから、別れの挨拶に相当する曲なのだろう。どことなく1990年代台湾ニューウェーブの前兆といった感じがする。
遲來的愛(1987年)
by 李茂山(りぃ・まぉしゃん)
李茂山さんは演歌畑の歌手。本来ならば《台湾ポップス》の範疇外だが、この年の曲を殆ど知らないうえ、女声ばかりになってしまうので採り上げた。テレビでよく見かけたし、演歌畑の人としては結構人気があったように思う。
今夜留一点愛給我(1988年)
by 甄秀珍(つぇん・しゅうちん)
実をいうと、曲も歌手もずっと後年になって知った。女声の絶叫調なので嫌いなはずだが、そう感じさせないところがミソ。他の中華系女性歌手と違って声量に乏しいがゆゑに、精一杯の声力を振り絞って歌うようで、なぜか愛おしくなってしまう不思議な“女声の魔力(?)”が秘められているのですよ。したがって、予断が生じぬよう敢えて映像を省き、オーディオのみとした次第。
東方女孩(1989年)
by 蔡幸娟(つぁい・しんちぇん)
個人的には、これが蔡幸娟さんの代表曲と思う。少女歌手時代は「中國娃娃(中国人形)」とか「東方雲雀(東洋のひばり)」の異名で呼ばれていたし、当該曲名まで【東洋の女の子】という意味なので、まさにピッタリ。更に、23歳になって女盛り(?)を迎えていた頃だけに、歌声に瑞々しさがあるうえ、声域がハマって些かの無理も窺えない。加えて端麗な容姿さえ備えているのだから、人気が出ない方がおかしかろう。
魯冰花(1989年)
by 甄妮(つぇん・に)
同名映画の主題歌。姓が同じでも、甄秀珍さんとは対極をなす姐御風豪快な歌い方の甄妮さん。それが子供たちから見れば、“頼りになる母親”のように映り、むしろ曲趣に適ってしまうのだから、歌の世界はわからない。
*ご参考*
台湾映画《魯冰花》(1989年)
以上、おしまひ。
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