どうも女性ばかりを構い過ぎる悪いクセがある。誤解を回避する意味で、偶には男性歌手についても書いておこう。
1980年代の台湾では、校園民歌と呼ばれるフォークソング調の若者御用達曲が、従来の演歌風楽曲を次第に凌駕する勢いで流行った時期である。日本で言えば、カレッジポップス華やかなりし昭和40年代を想起させる。TV歌謡番組の出演陣をみても、多くはこうしたポップス系歌手が中心だった気がする。
これから採り上げる劉文正(りゅう・うぇんちぇん)、楊峻榮(やん・ちゅんろん)の二人も、“校園民歌集”と題する海賊版(?)カセットテープにその名が見える。
却 上心頭(ちぇ・しゃんしんとう) - 劉文正(1981年)
劉文正は1952年生まれ、歌手兼映画俳優で引退した今はニューヨークに住んでいるとか。曲自体が自身の出演した同名映画主題歌である、『却 上心頭』とは、“却って気になる”といった意味らしい。宋代支那の李清照「一剪梅」を意識して作られた曲みたい。現に漢詩末の十五文字が、歌詞としてパクられている。
紅藕香殘玉簟秋。
輕解羅裳 獨上蘭舟。
雲中誰寄錦書來
雁字回時 月滿西樓。
花自飄零水自流。
一種相思 兩處閑愁。
此情無計可消除
才下眉頭 却上心頭。
情書團(ちんすぇとぅぁん) - 楊峻榮(1985年)
楊峻榮も1952年生まれ、現在は主に音楽プロデューサーとして活躍している様子。「情書」とは恋文(ラブレター)のこと。従って曲名を邦訳すれば“恋文使節”といった意味合いであろう。
YouTube関連動画に面白いのがあった。男性歌手を扱うとした本稿の趣旨に反するが、演歌畑の龍飄飄(ろん・ぴょうぴょう)さんが歌う同曲異演と聴き比べてみよう。
情書團 - 龍飄飄
う~む、如何にも演歌歌手といった風情。さすがに歌唱法まで変えられませんね。
ところでこの時期、演歌系の男性歌手が居なかったわけではない。比較的人気の高かった李茂山(り・まぉしゃん)を聴きましょう。
遲來的愛(ちらいでぃあい) - 李茂山(1987年)
曲名を邦訳するなら、“遅ればせながらの愛”ということになろうか。李茂山は1960年生まれ。現在はマレーシア、シンガポール一帯を活動拠点にしているらしい。投機に手を染めて失敗している点では、然る日本の演歌歌手とそっくり。
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