☆ 実 践
人中にて欠伸仕り候事、不嗜なる事にて候。不圖欠伸出で候時は、額を撫で上げ候へば止み申し候。さなくば舌にて脣をねぶり口を開かず、又襟の内袖をかけ、手を當てなどして、知れぬ樣に仕るべき事に候。くさめも同然にて候。阿呆氣に見え候。この外にも心を付け嗜むべき事なり。
【 訳 】
人中で欠伸をすることは、慎みを欠く行為である。思いがけず欠伸をしてしまったときは、額を撫で上げたりすれば止まるものだ。それで駄目なら、舌で唇を舐めながら口を閉じたままにし、或いは内袖で隠したり、手を当てたりして、人に知られぬようにすべきである。くしゃみもまた同じである。それらのことに気をつけないと、とかく馬鹿のように見えてしまうものだ。この外にも、気をつけて慎むべき事は多い。
【 解 説 】
常朝は日常生活の細かなことについても、役に立つ、さまざまなヒントを与えている。欠伸を留めることは今日にも実行出来ることである。私は戦争中からこれを読んで、欠伸が出そうになると上唇を舐めて欠伸を我慢した。殊に戦争中には大事な講話の最中に欠伸をしてさえ叱責を受けたので、常朝の教えは甚だ有効であった。
「欠伸を止める法」なんてものまで書かれているんですね。子供時分、人前で欠伸をするのは、礼儀を欠く恥ずかしいこととされていました。生理現象の一つでしょうから、思うに任せないのも事実ですが、額を撫で上げると止まるというのは本当でしょうか。今度、試してみよう。
「くしゃみ」は、「くさめ」と呼ばれていたのでしょうかね。
くさめ 【 嚔 】
1.くしゃみ。《季 冬》
2.くしゃみが出たときのまじないの言葉。
くしゃみをすると早死にするという俗信があって、
「くさめくさめ」と繰り返し言うと防げるといわれた。
なるほど、確かに。いやあ、勉強になります。
妹(今や子三人孫一人の母親)は、三人兄妹唯一の女ということもあって母からよく注意されていました。そうそう、特に女は、歯を見せてはいけないとかで、笑ったりするときでさえ、「葉隠」に書かれているように、内袖や手で口許を隠すよう躾けられていましたね。
昔なら不作法とされてきた何気ない所作も、最近ではあまり気にしなくなってはいますまいか。
ありがとうございました。
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