カンタータ第11番《神をその諸々の国にて頌めよ》BWV11
昇天節用カンタータで別名「昇天節オラトリオ」とも呼ばれています。昇天節用にバッハが作曲したのには、他にBWV37、BWV128、BWV43があり、BWV11が最も晩年(1735年)に書かれたものです。書簡章句は「使徒行伝」、福音章句が「マルコ伝」のそれぞれ“イエスの昇天”のくだりから採られたとあります。
【 解 説 】
1734年末から35年にかけての教会年にバッハが作曲した、一連の「オラトリオ」(バッハ自身の命名)の一つ。《クリスマスオラトリオ》《復活節オラトリオ》に続き、5月19日に初演されている。
構成はドイツの物語音楽の系譜に連なるもので、福音史家の語る聖書記事が、作品の骨格をなす。これらは原則としてテノールの叙唱として作曲され、その前後に、合唱曲、詠唱(アリア)、コラールなどが配置されて、イエスの昇天を、いま眼前に見るが如く描き出してゆく。去りゆくイエスに対する悲しみは、後半に至って再臨の希望へと昇華される。
他のオラトリオと同じく、この曲も旧作の大幅な転用に基づいており、新作は叙唱とコラールのみである。しかし、それによって、失われた祝典カンタータや結婚式セレナータの音楽が今日に伝えられた意義は大きく、アルトのアリア(第四曲)はのちに《ミサ曲ロ短調》の〈アニュス・デイ〉に転用されるなど、結果として成立した作品は申し分のない統一と劇的な生動をみせて、我々を魅了する。
トランペットやティンパニーが活躍する華やかな曲調になっています。件のアリアは、なるほど《ロ短調ミサ》にある〈アニュス・デイ〉と同じですが、これは「ミサ曲」で聴くべき曲ですね。「昇天節オラトリオ」の場合、ともにニ長調で奏でられる両端楽章がいい。
【 歌 詞 】
☆ 第一曲 合唱(五声部;トランペット、ティンパニ、横笛フルート、オーボエ、弦楽、通奏低音)
神をその諸々の国にて頌めよ、
その諸々の誉れによりて讃えよ、
その御稜威(みいつ)のゆえに崇めよ!
正しき諧調をもてその讃美を歌わんと努めよ、
汝等、群に集い、もろ声を合わせて
神に御栄えの歌をば捧げまつるとき。
☆ 第十一曲 終結コラール(「神信頼の歌《Von Gott will ich nicht lassen》」のメロディ、四声部;器楽全編成)
されどいつの日なりや、
いつの日か愛しき時は来たりて、
我彼の御姿をば
栄光の中に見まつるを得ん?
汝、待たるる日よ、いつ来たりて、
我等のもとに救い主を迎え、
口づけもて彼を抱かしむるや?
来たれ、とく現れ出でよかし!
CDは、昭和五十年ステレオ録音(リヒター指揮)のみ所持しています。リヒターは、この頃から妙に浪漫的な演奏をするようになり、初期の厳しいきびきびした演奏とは対照的な、箍の外れた桶みたいに弛んでしまったのが惜しい。
他の昇天節用カンタータは、ともにラミン指揮聖トーマス教会における録音盤のBWV128(昭和二八年)とBWV43(昭和二六年)を所有しており、こちらのほうが宗教的感動も得られ、数倍よい。128番はホルンまで入っているし、43番のほうは何とそのリヒターがチェンバロ奏者として加わっています。
以上は、良し悪しというより、あくまで個人的な好みです。リヒターファンのみなさま、ごめんなさい。
ありがとうございました。
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