《 第65話 》 「正義の苦悩」
【 あらすじ 】 祝は、世界平和を願って作られたHOジョー発爆弾が争いの元になっていると話し、柳木博士に研究の一切を破棄して欲しいと頼む。苦悩する博士。そこに山本記者を捕えたどくろ仮面から、山本の命と引き換えに爆弾の機密を渡せと迫る。
第64話からの続き。
祝 「先生、お願いがあります。」
博士 「何だね。僕に出来ることなら、何でも言ってくれ給え。」
祝 「では、率直に申し上げます。ジョー発爆弾の機密の一切を無にしてください。」
博士 「えっ、機密の一切を無にしろ?」
祝 「そうです。僕は、先生が研究を完成なされてから全世界に放送されたお言葉を、今でもはっきり憶えております。先生は、世界の国々に、戦争の過ちを二度と繰り返してはならない。繰り返すなら、それは全人類の破滅を意味する。それらを含めて研究発表なされました。」
博士 「そうだよ。私の信念は、昔も今もちっとも変わってない。それをどうして、ジョー発爆弾の研究の一切を無にしろというのかね。」
祝 「僕は、あの爆弾の機密を巡って起こる諸々の争いを見るに忍びなくなったのです。先生の研究が、どんなに平和に大切かはわかっています。しかし、その平和を守るために、いま、多くの人が傷ついています。」
博士 「祝君。」
祝 「いえ、僕は先生を責めているのではありません。いや、むしろ先生を尊敬し、先生のお心を知るが故に・・。」
博士 「しかし、あの研究を守るためには、全人類を救うためには、多少の犠牲もやむを得ないのではないのか。」
祝 頷き 「僕も今日までそう思ってきました。だが、一人の命も、百人の命も、人間の命の尊さには変わりがないはず。ましてや、相手が良かろうと悪かろうと、結局はあの爆弾の機密を巡って起こるに違いないのです。」
博士 「君は、どくろ仮面の一味にも同情するのか?」
祝 「同情ではありません。ただ、彼らの悪は、あの爆弾の機密を巡って作られたのです。もし、それがなかったら、おそらく彼らは自分の命を投げ出してまで、先生を襲ったり法律に楯を突くようなことはなかったのです。」
博士 「なるほど。確かに君のいうとおりかもしれない。私の発明が、逆に多くの人々を傷つけているということは事実なんだ。そのために、今日は新聞社の山本さんまで・・。」
節子 「先生、全然先生が悪いんじゃありませんわ。兄は喜んで、正しさのために戦っているんです。」
祝 「そうだ。山本君も、節子さんも、そしてあや子さんも。みんな正しさのために戦っているんです。しかし、問題は、HOジョー発爆弾の争奪戦に違いないのです。」
博士 「祝君、私だって苦しんでいるんだ。あや子、お父さんは間違っていたのか。私の研究は、人類のためにはならなかったのか。」
あや子 首を横に振り 「十郎さん、父の気持を察してあげてください。誰だって、平和を願う心は一つです。」
祝 「・・・。」
博士 疲労困憊して 「祝君。もう少し考えさせてくれ。」
祝 「先生、僕は少し強く言い過ぎたかもしれません。小さな平和に拘って、大きな平和を見失っていたかもしれません。」
「建前」に対する「本音」のぶつかり合いでしょうが、わたくしは好きですね。こういう、本音で話し合える雰囲気。各人バラバラで意思統一が出来ない、とか言ってこれを嫌う人もあるようですが、現実には、十人十色、百人百様の考えがあるわけで、むしろ異なる考えがなければ、失敗したときの再生が困難となってしまうでありましょう。
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