我国独自の年末行事と言えば、『忠臣蔵(赤穂浪士)』がある。討ち入りが12月14日と伝わっているからだが、日付は旧暦なので今季(新暦)に当て嵌めると令和三年一月二十六日になる。しかも、翌朝午前4時頃の決行とあれば、本当は翌二十七日未明のはずだ。けれども、肝腎の「当日」が、年毎にコロコロ変わっては具合が悪い。そこで「新暦十二月十四日」にしたのだろう。チャイナ文化圏みたいに「正月」さえ旧暦に従う習慣はないが、盂蘭盆会のように、新暦・旧暦どちらにせよ、地域・家門などによって対応が異なる場合もある。
『忠臣蔵』はドル箱演目だから、〝赤穂事件″に触れた作品まで加えると、映画・TVで夥しい数に上る。
保有する主な作品
☆ 映画
01.元禄忠臣蔵(松竹/1941‐42年)・・・河原崎長十郎(大石良雄)
02.忠臣蔵(松竹/1954年)・・・八代目松本幸四郎(大石良雄)
03.刃傷未遂(大映/1957年)・・・柳永二郎(吉良義央)
04.赤穂浪士(東映/1956年)・・・市川右太衛門(大石良雄)
05.ほまれの美丈夫(東映/1956年)・・・伏見扇太郎(神崎与五郎)
06.悲恋おかる勘平(東映/1956年)・・・中村錦之助(早野勘平)
07.誉れの陣太鼓(東映/1957年)・・・尾上鯉之助(神崎与五郎)
08.赤穂義士(東映/1957年)・・・月形龍之介(天野屋利兵衛)
09.忠臣蔵(大映/1958年)・・・長谷川一夫(大石良雄)
10.忠臣蔵(東映/1959年)・・・片岡千恵蔵(大石良雄)
11.血槍無双(東映/1959年)・・・片岡千恵蔵(俵星玄蕃)
12.赤穂浪士(東映/1961年)・・・片岡千恵蔵(大石良雄)
13.忠臣蔵(東宝/1962年)・・・八代目松本幸四郎(大石良雄)
14.赤穂城断絶(東映/1978年)・・・萬屋錦之介(大石良雄)
☆ TVドラマ(連続物のみ)
15.あゝ忠臣蔵(関西テレ/1969年)・・・山村聰(大石良雄)
16.大忠臣蔵(NET/1971年)・・・三船敏郎(大石良雄)
17.編笠十兵衛(フジ/1974年)・・・高橋英樹(月森十兵衛)
18.赤穂浪士(テレ朝/1979年)・・・萬屋錦之介(大石良雄)
19.忠臣蔵(フジ/1996年)・・・北大路欣也(大石良雄)
20.編笠十兵衛(テレ東/1997年)・・・村上弘明(月森十兵衛)
このうち、繰り返し観るのは「01」「03」「04」「05」「11」「16」ですね。
1.-松竹映画『元禄忠臣蔵』-
原作(真山青果)、監督(溝口健二)、音楽(深井史郎)
個人的には『忠臣蔵』の史上最高傑作。〝殿中刃傷″場面を除き、チャンバラがない特異な時代劇である。一般にハイライトとされる〝討ち入り″もない。時局柄、秋の東山天皇の「事件」に対する存念が殊更取り沙汰される。小難しい武家言葉が多用され、現代人の庶民感覚とは別世界である。どちらかと言えば、娯楽性に背を向けた、内心の葛藤を抉り出すかのような心理劇的側面が強い。ゆゑに、抽象的でかなり難解である。戦時下とあって、殊更「武士道(就中〝至誠″)」が強調される。そのため、戦後のお約束事となった「おかる勘平」「赤埴源蔵徳利の別れ」「天野屋利兵衛は男でござる」や毛利小平太、高田郡兵衛などの脱盟者も一切出て来ない、
3.-大映映画『刃傷未遂』-
原作(林不忘)、監督(加戸敏)、音楽(鈴木静一)
浅野長矩(夏目俊二)刃傷事件の前年という設定。『忠臣蔵』とは真逆で、勅使接待役岡部美濃守(長谷川一夫)が弟辰馬(勝新太郎)とその恋人(岡田茉莉子)を使って吉良上野介(柳永二郎)をコテンパンにやっつける痛快劇。吉良家用人役小川虎之助がスケベな役柄を好演。ツンデレ女優岡田茉莉子は、数ある出演作中〝らしさ″を見せる本作が最も美しい。
4.-東映映画『赤穂浪士』-
原作(大佛次郎)、監督(松田定次)、音楽(深井史郎)
NHK大河ドラマ『赤穂浪士』(1964年)の印象が強いが、リアルタイムで観たのは本作が最初。戦後の傑作映画だ。クレジット上では立花左近役片岡千恵蔵が主演というヘンテコな作品である。それだけに、左近と内蔵助の無言の長い睨み合い場面が堪らない。
5.-東映映画『ほまれの美丈夫』-
原作(五都宮章人)、監督(伊賀山正徳)、音楽(伊藤宣二)
大事の前の小事とばかりに、神崎与五郎(伏見扇太郎)〝馬喰(進藤英太郎)の股くぐり″がでてくる。お妙役三笠博子が純情可憐。戦後の一時期流行った浪曲仕立ての映画。和洋折衷のタイトル曲が耳について離れない名曲。
11.-東映映画『血槍無双』-
脚本(小国英雄)、監督(佐々木康)、音楽(鈴木静一)
お馴染みの俵星玄蕃(片岡千恵蔵)による杉野十平次(大川橋蔵)への秘技「畳返し術」伝授物語。武士道精神を前面に押し出した作品はこの頃までで消えてしまう。以降は戦後的価値観に基づく作風が主流になる。
16.-NET-TV『大忠臣蔵』-
脚本(高岩肇ほか)、監督(土居通芳ほか)、音楽(冨田勲)
各界著名人多数出演の豪華版。三船敏郎の内蔵助は適役とは思えないが、市川中車(上野介)と伊藤雄之助(大野九郎兵衛)が、表裏のある性格を好演して素晴らしい。市川中車急逝により47話以降市川小太夫が代役を勤めるが、魅力が消えてつまらなくなってしまう。NHK大河ドラマも手掛けた冨田勲の重厚な主題曲も佳い。豪華出演者に加え、「忠臣蔵」に纏わる殆どの逸話も入って盛り沢山なドラマだ。生命至上主義が時折顔を出すものの、この時代には珍しく、概ね古典的な作風である。面白いのは、謀(はかりごと)を嫌い、正々堂々とした自然体を貫こうとする内蔵助の初一念が強調されている点。これは「1」にも通じて、先祖帰りしたかのよう。
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