バッハは昇天節用カンタータを次の四つ作曲している。
BWV37(1731年)、BWV128(1725年)、BWV43(1726年)、BWV11(1735年)
なかでもBWV11は、バッハ自身が『昇天節オラトリオ』と名付けたほどの力作(?)であって、「鉦や太鼓」ならぬ「喇叭や太鼓」を打ち鳴らしての稀有壮大にして賑々しい音楽となっている。
バッハ『カンタータ第11番』(別名;昇天節オラトリオ)
《神をそのもろもろの国にて頌めよ》
-昇天節用-
1734年末から35年にかけての教会年にバッハが作曲した、一連の「オラトリオ」(バッハ自身の命名)の一つ。《クリスマスオラトリオ》、《復活節オラトリオ》に続き、5月19日に初演されている。構成はドイツ物語音楽の系譜に連なるもので、福音史家の語る聖書記事が、作品の骨格を成す。これらは原則としてテノールのレチタティーヴォとして作曲され、その前後に合唱曲、アリア、伴奏付きレチタティーヴォ、コラールなどが配置されて、イエスの昇天を、今眼前に見るがごとくに描き出してゆく。去り行くイエスに対する悲しみは、後半に至って再臨の希望へと昇華される。
ほかのオラトリオと同じく、《昇天節オラトリオ》も旧作の大幅な転用に基づいており、新作は レチタティーヴォと四声体コラールのみである。しかしそれによって失われた祝典カンタータや結婚式セレナータの音楽が今日に伝えられた意義は大きく(第四曲アルトのアリアは後に《ミサ曲ロ短調》の〈アニュスデイ〉となる)、結果として成立した作品は申し分のない統一と劇的な生動をみせて、我々を魅了する。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
リヒター盤(1975年録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
エディット・マティス(ソプラノ)
アンナ・レイノルズ(アルト)
ペーター・シュライヤー(テノール)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バス)
悪くないと思うが、個人的にシュライヤーの歌声が嫌いで、日常的に聴くことはない。昇天節用カンタータの愛聴盤は次のラミン盤である。
バッハ『カンタータ第43番』
《神は喜び叫ぶ声とともに昇り》
-昇天節用-
ラミン盤(1951年聖トーマス教会でのモノラル録音)
指揮;ギュンター・ラミン(トーマスカントール)
ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊
ゲルトルート・ビルメーレ(ソプラノ)
エヴァ・フライシャー(アルト)
ゲルト・ルッツェ(テノール)
ヨハンネス・エッテル(バス)
カール・リヒター(チェンバロ)
前述ディスクの指揮者リヒターが。チェンバロ奏者で参加した珍蔵盤(?)である。そんなことより、賑々しさはBWV11と共通するものの、オーケストラの古楽器的渋い響きと聖歌隊の小天使みたいに清らかな歌声や独唱者の真摯な歌唱が信者ならずとも信仰心を呼び覚ます。終結コラールに至って世俗に穢れた己が魂まで洗い浄めっられた充実感が横溢する。これぞ宗教楽鑑賞の「冥利」ではなかろうか。
コメント