バッハ『カンタータ第78番』
《イエスよ、汝我が魂を》
-三位一体節後第14日曜日用-
珠玉のような美しさに満ちたこのコラールカンタータは、1724年の9月10日に初演された。福音書章句が語るのはハンセン氏病を癒す奇跡であるのが、J.リストのコラールに基づく台本は、より本質的な魂の癒し、即ち、「キリストの犠牲死による魂の救い」というテーマを採り上げる。冒頭に置かれるのは、パッサカリア形式にコラールを組み込んだ、雄大な楽章。主題はラメントバスの半音階下降句で受難の悲劇性を表現するが、その意義が救済にあることが明らかにされるにつれて、活発なリズム音型が力を増してくる。主に帰依する者らの喜ばしげな歩みを伝える名高い二重唱が、これに続く。すると視点が内面に転回され、テノールが厳しい口調で、我身の罪を告白する。その重荷を取り除くのは、キリストが十字架上で流した血に他ならない。その意義に開かれた心は、内的高揚を感じつつ、新たなる生へと出で立つ(アリア)。続いてバスが改めて受難を省察し、コンチェルト風のアリアで、解放の喜びを歌う。なお、両端楽章のフルートと二重唱のコントラバスピチカートは、1735年以降の再演の際加えられたものである。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
*楽曲構成*
第1曲-コラール合唱(四声部)、ト長調-J.リスト1641年作コラール第1節
第2曲-二重唱アリア(ソプラノ+アルト)、変ロ長調
第3曲-レチタティーヴォ(テノール)
第4曲-アリア(テノール)、ト短調
第5曲-レチタティーヴォ(バス)
第6曲-アリア(バス)、ハ短調
第7曲-コラール(四声部)、ト短調-J.リスト作コラール第12(終結)節
異教徒にとって「三位一体(さんみいったい)」と言われても意味不明だが、仏教語〝三身一体(さんじんいったい)=法身、報身、応身″を思い浮かべれば当たらずとも遠からず、即ち、「父なる神」+「神の子イエス・キリスト」+「聖霊」=三つの位(くらい)を指すのだとか。〝三種の神器”と同様に、どれを欠いてもいけないらしい。だからこその〝一体”なのだろう。
教会暦に於いて、この三位一体節後の期間が最も長い。年毎に異なるが、6月から11月末か12月初旬までの凡そ半年間もある。当該用カンタータは、ドラマチックなものより内省的な曲が多く、大好きですねこの第78番。とりわけ第7曲の終結コラールが好い。最後の二行《主イエスよ、戦終えし後、美しき永遠の御国に到りて。》と結ばれる際、途中で半音上がる件が印象的である。
保有CDは次のリヒター盤だけだが、これがあれば充分な満足が得られる名盤。後年の有名歌手を集めた独唱陣に比べると、当時無名だったかもしれないが、真摯な歌声が胸を打つ。宗教楽は、演奏の巧拙などあまり関係ない。演奏者の〝精神=魂(スピリット)”が、結果に顕われてしまうのだ。
リヒター盤(1961年録音)
指揮;カール・リヒター
アンスバッハ・バッハ週間管弦楽団
ミュンヘンバッハ合唱団
ウルズラ・ブッケル(ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(アルト)
ヨーン・ファン・ケステレン(テノール)
キート・エンゲン(バス)
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