バッハ『カンタータ第51番』
《全地よ、神に向かいて歓呼せよ》
-三位一体節後第15日曜日用-
極めて華麗な作風を持つ、ソプラノ独唱のためのカンタータ。自筆楽譜には「三位一体節後第15日曜日、およびすべての機会に」とあり、前者であれば、1730年9月17日に初演されたことになる。しかし、ソプラノに要求される至難な技巧と広い音域は前後の作品から際立っているため、ライプツィヒ以外の地、例えば名歌手のいたドレスデン、或いはヴァイセンフェルツの宮廷のために作曲されたという説も強く主張されている(ドレスデンであれば、イタリア人カストラート歌手のG.ピンディがその候補となる)。
歓呼を歌う冒頭のアリアと終曲のコラール(三位一体の讃美)は、ソプラノのコロラトゥーラと独奏トランペットの、華々しい協奏。後者は「アレルヤ」へと高揚する。それだけに、中間に置かれた朝毎の慈しみを祈るアリアが、清々しく心に残る。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
*楽曲構成*
第1曲-アリア(ソプラノ)、ハ長調
第2曲-レチタティーヴォ(ソプラノ)
第3曲-アリア(ソプラノ)、イ短調
第4曲-コラール(ソプラノ)、ハ長調/J.グラーマン1549年作コラール終結部
第5曲-アリア(ソプラノ)、ハ長調-アレルヤ!
余談ながら、解説にある〝カストラート歌手″とは、少年期の声を保つために、意図的に去勢された男性歌手のこととか。支那・朝鮮の宦官じゃあるまいし。16‐18世紀のイタリアで流行し、オペラだけでなく、信じ難いことに20世紀初頭まで教会聖歌隊でも採用されていたそうな。
バッハがカストラート歌手を想定して作曲したかは詳らかでないが、現代倫理基準に外れた風習なので、この曲のレコード(CD)に採用された例を知らない。しばしばラミン盤で、少年聖歌隊員にソプラノ、アルトの女声パートを代用させているのは、前時代の名残なのかもしれない。あまり好い趣向とは思えないけれど。
保有CDは、ラミン盤と新旧リヒター盤の計三種。
ラミン盤(1948年聖トーマス教会でのモノラル録音)
指揮;ギュンター・ラミン(トーマスカントール)
ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊
ゲルトルート・ビルメーレ(ソプラノ)
カール・ゼーガース(トランペット)
とかく派手派手しくなりがちな曲だが、悠揚迫らぬテンポといい、素人っぽいソプラノ歌唱といい、控えめなトランペットといい、教会音楽という〝聖域″内に留まっている点を偉としたい。
リヒター盤(1959年録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
マリア・シュターダー(ソプラノ)
ヴィリ・バウアー(トランペット)
トランペットが喧しい点を除けば、満足できるレベル。日常的にはこの盤を聴くことが多い。
リヒター盤(1977年録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
エディット・マティス(ソプラノ)
ピエール・ティボー(トランペット)
三人の独唱歌手中、マティスさんが最も有名であろう。ただし、声量がないため、出しゃばりトランペットに圧倒されて、せっかくの美声を掻き消されて惜しい。彼女にコロラトゥーラ唱法は向かないと思う。
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