バッハ『カンタータ第147番』
《心と口と行ないと生きざまは》
-聖母マリアのエリザベツ御訪問記念日(7月2日;現行5月31日-)用-
この作品は、ヴァイマル時代にバッハが書いた最後のカンタータ(BWV147a)を原作とする。サロモン・フランクの台本によるBWV147a(待降節第4日曜日用)は、二つの合唱曲と四つのアリアで構成されていた。これをマリアのエリザベツ訪問の祝日用に改作するにあたり、バッハはアリアの歌詞を変えてコラールを入れ替え、レチタティーヴォを新たに作っている。今日演奏されるのは、1723年(ライプツィヒ初年度)7月2日に初演された後者の形である。
曲は全二部、十曲から成る大作であるが、トランペットを交えた弾むような冒頭合唱からレチタティーヴォ、アリア(短調の女声曲と長調の男声曲が二曲ずつ対比される)、コラールに至るまですべてに瑞々しい美しさが溢れており、神の子を身ごもったマリアの喜びが、しみじみと伝わってくるような音楽となっている。コラール楽曲は、〈主よ、人の望みの喜びよ〉の題名でピアノ編曲されて有名。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
*楽曲編成*
第一部
・第1曲=合唱(四声部)
・第2曲=レチタティーヴォ(テノール)
・第3曲=アリア(アルト)
・第4曲=レチタティーヴォ(バス)
・第5曲=アリア(ソプラノ)
・第6曲=コラール(四声部合唱)
第二部
・第7曲=アリア(テノール)
・第8曲=レチタティーヴォ(アルト)
・第9曲=アリア(バス)
・第10曲=コラール(四声部合唱)
保有ディスクは次のリヒター盤のみ。
リヒター盤(1961年録音)
指揮;カール・リヒター
アンスバッハ・バッハ週間管弦楽団
ミュンヘンバッハ合唱団
ウルズラ・ブッケル(ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(アルト)
ヨーン・ファン・ケステレン(テノール)
キート・エンゲン(バス)
オーケストラは【バッハ週間】開催時の臨時編成だが、公演のライブ録音ではなさそう。スケジュールの合間を縫って別途録音されたものと思われる。悪くはないが、トランペット(一部曲はスライドトランペットの代用)が出しゃばりすぎて興醒めだし、もっと喜びに満ちた躍動感が欲しい。しかし、何せこれしかないのだから、「ないものねだり」はやめておこう。なお、昨今流行りの小編成古楽器演奏版を見向きもしないのは、大編成の壮大な響きに慣れ親しんだ耳には、チャチで安っぽく感じられるからだ。尤も、三百年も昔のバッハ時代を考えれば、古楽器派に正統性があるのかもしれない。
せっかくだから、解説にあるピアノ編曲版も聴いてみよう。
コラール〈主よ、人の望みの喜びよ〉ピアノ編曲版(マイラ・ヘス編)
ディヌ・リパッティ(ピアノ)‐1950年死の5か月前の録音
曲名に反して何と物悲しい演奏だろう。それもそのはず、白血病という難病を得てこの年末に33歳の若さで他界している。深刻な病のせいか、名手にして屡々指運びが縺れているところが痛々しい。
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