自分はクリスチャンではないが、バッハのカンタータ(交声曲)が大好きである。したがって、勝手ながら気に入った楽曲を聴いてみることにする。因みにバッハ自身は、ルター派(プロテスタント)の信徒で、ドイツ各地の教会オルガニストを経て晩年はライプチヒ市内の聖トーマス、聖ニコライ、聖ヨハネの三教会と市主催行事の音楽監督を歴任している。
では、ルター派教会暦に従って聴いてみよう。
カンタータ第36番《喜び勇みて羽ばたき昇れ》
-待降節第一日曜日用-
教会カンタータは、礼拝の付随音楽として作曲されるため、予め演奏日が決まっている。教会暦は「待降節」から始まるため、凡そ例年12月初旬である。12月25日「降誕節(いわゆるクリスマス)」、1月1日「新年」、10月31日「宗教改革記念日」など日付が決まっているものもあるが、概ね各行事は年毎に移動する。バッハはこの日(待降節第一日曜日)のために、BWV61、BWV62と合わせて合計3曲のカンタータを書いている。BWV62のみ未聴だが、いずれもキリスト降誕を待つ希望と期待に満ちた胸躍る明るい曲調である。
(1952年ライプチヒ聖トーマス教会での録音)
指揮;ギュンター・ラミン(トーマスカントール)
ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊
エリザベート・マイネル-アスバール(ソプラノ)
聖トーマス教会聖歌隊員(ボーイ・アルト)
ロルフ・アプレック(テノール)
ヨハンネス・エッテル(バス)
この曲のベスト盤。昔の録音なのでモノラルかつ音は貧しいが、一音入魂の気迫が籠った緊張感が堪らない。聴衆(信徒)の居ない教会とは言え、聖域での録音がそうさせているのかもしれない。第一部第四曲のコラール(衆讃歌)が歌われるに至って、明るい曲調にも拘らず宗教的感動のあまり、落涙を禁じ得ない。
バッハもトーマスカントール(教会だけでなくライプツィヒ市行事を含む音楽総監督)に就任してカンタータを大量作曲したわけだが、バッハ以降のカントールは、新作より既存曲(殆どバッハ)の再演のみに終始するようになっている。ライプツィヒ市聖トーマス教会のカントール制度は今日なお続いている。では、今21世紀に入ってからの演奏も聴いてみよう。
(2012年録音)
指揮;ゲオルク・クリストフ・ビラー(トーマスカントール)
ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊
聖トーマス教会聖歌隊員(ボーイ・ソプラノ)
聖トーマス教会聖歌隊員(ボーイ・アルト)
クリストフ・ゲンツ(テノール)
ダニエル・オチョア(バス)
う~む、名盤(ラミン)の後で聴くと、弛み切った凡演、というか駄盤の類、悪いけど。演奏陣の気合が入ってないんですね。これじゃあ信徒でなくとも、宗教的感動もヘチマもない。ラミン盤からちょうど60年後の録音。物質的には豊かになったかもしれないが、芸術的劣化が酷い。
【補足】
1994年3月(だと思う)、バッハ、ワグナーの足跡を追ってアイゼナハ、ケーテン、ドレスデン、ヴィッテンベルク、ブランデンブルク、ライプツィヒなど主に旧東独を単身旅行した。当然、聖トーマス教会にも寄った。生憎外観工事中だったが、夜には無料オルガンコンサートも開催された。雪が降る中、暖房のない仄暗い教会ベンチで凍えながら聴いた。バッハがここの地下で永眠している、と思うと単に寒さだけでない武者震いに似た震えが止まらなかった。ゆゑに、演奏自体はよく憶えていないが、夢心地で聴いていたように思う、マッチ売りの少女みたいに。
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