前々稿でブラームスの『田園(交響曲第二番)』を採り上げた。さすれば、本家本元のベートーベン『交響曲第六番』を話題にせずばなるまい。もちろん大好きな曲だが、未だ子供だったせいもあって、レコードは25㎝LP(ヨッフム/ベルリンフィル)たった一枚しか保ってないが、CDなら全集物を含めてたくさんある。
1.シャルク/ウィーンフィル(1928;モノ)
2.ワルター/ウィーンフィル(1936;モノ)
3.フルトヴェングラー/ウィーンフィル(1953;モノ)
4.ヨッフム/ベルリンフィル(1954;モノ)・・・所有LPのCD盤
5.モントゥー/ウィーンフィル(1958)
6.ワルター/コロムビア響(1958)
7.コンヴィチュニー/ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1960頃)
8.ケンペ/ミュンヘンフィル(1974)
『田園交響楽』と言えば、アンドレ・ジッド著のお仏蘭西小説が有名だが、音楽なら一般にこの曲を指す。映画では断然山本薩夫監督の『田園交響曲』(昭和13年)だ。YouTubeにあったのでダウンロードしてある。
話が逸れた。音楽の話題である。上記8枚はそれなりにどれも佳いが、とりわけ最初に買った「4」と中学校の音楽授業で聴いた「2」には特別な思い入れがある。「2」はSP復刻版、「4」はLP復刻版。ともにモノラルで音質こそ貧しいが、その代わり心を豊かにしてくれる。日常的に聴くのは名盤の誉れ高い「6」である。「1」は、この曲のリファレンス盤。「3」は標題とは裏腹にデモーニッシュな凄演。でも好きですよ。「5」はお仏蘭西の指揮者だから、件の小説に通じるのかな。「7」「8」は独逸の地方オーケストラなので長閑な雰囲気が味わえる。特に「7」は東独の楽団だったため、楽器の近代化が遅れたせいもあって、古色蒼然たる音色が在りし頃のベートーベンを髣髴とさせてくれる。
四半世紀(25年)ほど前、アイゼナハ、ケーテン、ライプチヒ、ドレスデン、ベルリンなどクラシック音楽縁の旧東独逸を独り旅した。統一直後だったが、東西では歴然たる格差が残っていた。ベルリンも数年前まで東西に分断されていたので、壁(もうなかった)一つ隔てただけで景色がまるで違った。旧西側が「現代」とすれば旧東側は「戦前」のままと言った風情。冬場だったので、暖房用石炭の臭いが懐かしい。一例を挙げるとマクドナルド、従業員も値段も東西で違った。西は若い娘を揃えているのに、東は小母さんばっかり。値段も東のほうがかなり廉かった。統一通貨マルクは旧西側の貨幣。ゆゑに100マルク札の肖像画は、クララ・シューマン(作曲家ロベルト・シューマン夫人;ピアニスト)だった。因みに旧東100マルク札は、共産主義思想の教祖カール・マルクス。欧州統一通貨ユーロになる前の話である。
まあ、そんなことは音楽とは何の関係もない。書きたかったのは、オーケストラの違いである。この旅行で、偶々旧東側にあったベルリン交響楽団(現コンツェルトハウス管)を聴く機会があった。演奏会場は19世紀古典派時代に建立されたコンツェルトハウス(旧称シャウシュピールハウス)。ウェーバーやワグナーが自作オペラを初演したことでも有名。補修工事中だった建物自体が旧時代を象徴するかのように格調高い。ブラームス『交響曲第3番』をメインに、ハイドン『ホルン協奏曲』(独奏ノイネッカー/女流奏者当時30歳代来日歴有)などが出し物。
コントラバス背後の二階席だったが、観客席と向き合う位置なのでオーケストラの一員になった気分。ところが、低弦が腹に響いて堪らない。それより、フルート奏者は現代風の金属製でなく、トラディショナルな木製フルートだった。勢い木笛に似た古色蒼然たる音色を導き出す。好きだなぁ、こういう懐かしい音色。
というわけで、懐かしき演奏を聴いてみよう。
ヨッフム指揮ベルリンフィル(1954年録音)
ワルター指揮ウィーンフィル(1936年録音)
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