戦前の童謡唱歌で、歌詞を改変して戦後も歌い継がれている代表例が『お山の杉の子』だろう。昭和19年の作だから、オリジナル歌詞では僅か一年ほどしか歌われなかったことになる。
オリジナル盤(1944年)
歌;安西愛子、加賀美一郎、壽永恵美子、日蓄兕童合唱團
オリジナル歌詞
吉田テフ子作詞/佐々木すぐる作曲
一、昔 昔のその昔 椎の木林の すぐそばに
小さなお山が あつたとさ あつたとさ
丸々坊主の はげやまは いつでもみんなの 笑ひもの
これこれ杉の子 おきなさい
お日さまにこにこ 声かけた 声かけた
二、一、二、三、四、五、六、七 八日 九日 十日たち
によつきり芽が出る 山の上 山の上
小さな杉の子 顔出して はいはいお日さま こんにちは
これを眺めた 椎の木は
あつははの あっははと大笑ひ 大笑ひ
三、こんなちび助 なんになる びつくり仰天 杉の子は
思はずおくびを ひつこめた ひつこめた
ひつこめながらも かんがへた なんの負けるか いまにみろ
大きくなつて 国のため
お役に立つて 見せまする 見せまする
四、ラジオ体操 一二三 子供は元気で 伸びてゆく
昔々の はげ山は はげ山は
今では立派な 杉山だ
誉れの家の 子の様に 強く大きく たくましく
椎の木見おろす 大杉だ 大杉だ
五、大きな杉は 何になる 兵隊さんを 運ぶ船
傷痍の勇士の 寝るお家 寝るお家
本箱 お机 下駄 足駄 おいしいおべんと 食べるはし
鉛筆ふで入れ そのほかに
たのしや まだまだ役に立つ 役に立つ
六、さあさあ負けるな 杉の木に 勇士の遺児なら なほ強い
体を鍛え 頑張つて 頑張つて
今に立派な 兵隊さん 忠義孝行 ひとすぢに
お日様出る国 神の国
この日本を 守りませう 守りませう
註)赤字が戦後改訂削除させられた部分(サトウ・ハチロー補作詞)
旧敵国(GHQ)占領下、検閲によりどんな文言がNGとなったかがよく解る。要するに、復讐(敵討ち)を怖れたのである。
戦後歌詞改変盤(オリジナル盤発売から数年後の録音?)
歌;安西愛子、川田孝子、伴久美子、コロムビア杉の子子ども会
自分はもちろん、戦後の改変歌詞で育った。しかし、如何に旧敵国草案憲法下にあろうと、“世のため人のために役立つ”という日本国民としての総意は、戦前から何ら変わっていない(受け継がれている)と思うし、そう信じたい。この延長線上に【國のため】があるに過ぎない。
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