徳山璉(1903-1942)、上原敏(1908-1944)、楠木繁夫(1904-1956)と言えば戦前戦中に活躍した男性歌手。したがって、リアルタイムで聴いたことのない歌声を“懐メロ”と呼ぶのは些か妙だが、旧き佳き時代を感じさせてくれて大好きです。
唯一の戦後まで生き残った(?)楠木繁夫さんから聴いてみよう。
何と言っても代表作はこれ(↓)。
綠の地平線(昭和10年)-歌唱;楠木繁夫
佐藤惣之助作詞/古賀政男作曲
なぜか忘れぬ人故に 涙かくして踊る夜は
ぬれし瞳にすすり泣く リラの花さえなつかしや
わざと氣強くふりすてて 無理に注(つ)がして飲む酒も
霧の都の夜は更けて 夢もはかなく散りて行く
山のけむりを慕ひつつ いとし小鳩の聲きけば
遠き前途(ゆくて)にほのぼのと 綠りうれしや地平線
“山のけむりを・・・”の三番歌詞から、うっかり伊藤久男『山のけむり』(昭和27年)と混同してしまう。あちらも佳い歌ですけどね。
知りませんでしたが、映画『緑の地平線』(日活;昭和10年)の主題歌なのだとか。未見なれど、原節子、伊沢一郎、見明凡太郎、村田知栄子、沢村貞子ら知ってる俳優も出ているらしい。さらに、昭和37年には、馬淵晴子、渡辺文雄主演で日テレでTVドラマ化もされている。ただし、こちらも未見。
同じ曲調に『ハイキングの唄』(昭和10年)というのがある。個人的な好みで言えば、こっちを推したいくらい。
ハイキングの唄(昭和10年)-歌唱;楠木繁夫
島田芳文作詞/古賀政男作曲
空は晴れたよ歓喜の朝(あした) 光り長閑に野にまた山に
行手樂しや血潮は躍る 行こうよ行こうよスクラム組んで
心はほがらか ハイキング
招く山並眉引く裾野 薫る七草乱れて咲けば
遠い高嶺に希望は躍る 行こうよ行こうよ足並揃え
心は樂しい ハイキング
遠いあこがれ輝く瞳 吹くは口笛綠にとけて
なびく木茅に涼風千里 行こうよ行こうよ大地を踏んで
心はとけゆく ハイキング
長くなるがもう一曲。
人生劇場(昭和13年)-歌唱;楠木繁夫
佐藤惣之助作詞/古賀政男作曲
戦後、村田英雄がリバイバルヒットさせたせいで、そのほうが広く人口に膾炙してしまったが、もとを正せばこっちがオリジナル。尾崎士郎の自伝的同名小説に曲想を得たもので、特定同名映画主題歌ではないらしい。尤も、有名書籍だけに、映画化だけでも14作あるとか。早大を舞台としていることから、校友の間では“第二校歌”的に長らく愛唱されてきた。今はどうだろう?
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