徳山璉(1903-1942)さんの場合、自分が生まれたとき、既にこの世の人ではなかったので、リアルタイムで聴いたことはない。東京音楽学校(現東京芸術大学)声楽科卒業後、一時は武蔵野音楽学校(現武蔵野音楽大学)教師を勤めた秀才である。本来は歴としたクラシック声楽家でありながら、流行歌分野にも進出して国民的人気歌手となった。時節柄、人気ゆえの国策歌謡(『隣組』『日の丸行進曲』『大陸行進曲』『太平洋行進曲』『空の勇士』『國民進軍歌』『大政翼賛の歌』『愛馬進軍歌』など)も数多く歌っている。そのせいばかりではあるまいが、価値観が倒錯した戦後はすっかり忘れられた存在になってしまった。
代表曲はやっぱり『侍ニッポン』(西條八十作詞/松平信博作曲;昭和6年)であろう。松平の“殿様”が作曲した正真正銘の“サムライ”の曲である。しかし、個人的な好みで挙げるなら、独唱ではないものの『愛國行進曲』ですね。
國民歌謡『愛國行進曲』(昭和13年)
by 徳山璉、灰田勝彦、四家文子、中村淑子、平山美代子、日本ビクター児童合唱団
作詩 森川幸雄
作曲 瀬戸口藤吉
見よ東海の 空明けて
旭日高く 輝けば
天地の正氣 潑剌と
希望は躍る 大八洲
おゝ晴朗の 朝雲に
聳ゆる富士の 姿こそ
金甌無缺 搖ぎなき
我が日本の 誇なれ
起て壹系)の 大君を
光と永久に 戴きて
臣民我等 皆共に
御稜威に副はん 大使命
往け八紘を 宇と爲し
四海の人を 導きて
正しき平和 うち建てん
理想は花と 咲き薫る
いま幾度か 我が上に
試練の嵐 哮るとも
斷乎と守れ 其の正義
進まん道は 壹つ爾
あゝ悠遠の 神代より
轟く歩調 うけ繼ぎて
大行進の 往く彼方
皇國つねに 榮あれ
如何にも時代がかった歌詞だが、何だか生まれ故郷へ還ったような安らぎを覚える。
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