前稿では『事件記者』(NHK;昭和33年)を採り上げた。原作者は、戦前・戦中に「満洲日報」の新聞記者を務めていた島田一男(1907-1996)という人である。戦後は推理作家としてこの番組の原作となる小説などを著したわけだが、時代・怪奇小説も書いていてTV劇化された代表例が『同心部屋御用帳江戸の旋風』(フジ;昭和50年)であろう。
戦後30年を経て戦前・戦中の支配層はパージ(公職追放)に遭ったり引退したりで次第に姿を消し、世の中全体がアプレ(戦後派)の天下となりつつあった。そんな世相を反映して、TV時代劇も、西部劇風とかアウトロー(無法者・無頼漢)を英雄視するかのような新手の作風が流行していた。この『江戸の旋風』も時代劇としては甚だ現代的であり、一瞥しただけでは時流に乗った作品としか思えない。しかし、当時流行りの新潮流“戦後派時代劇”とは何処か違って映る。
なぜか?その理由を探ってみた。
1.シリーズを通しての特定主人公がいない
放送回毎に物語の中心となるレギュラー出演者が異なる
2.ホームドラマ仕立てになっている
同心部屋の一族郎党が一つの家族といった風情
3.【義理と人情】の挟間で葛藤する物語が多い
要するに登場人物の言葉遣いや立ち居振る舞いなど外面こそ現代風だが、その実、内面が如何にも古風(日本的)である、ということか。まるで【近松門左衛門】の脚本に成るみたいで大いに気に入っている。ご先祖様を肯定的に理解する生粋の日本人でなければ、西洋かぶれの現代っ子や外国人俳優には演じること能わずの領域であろう。
レギュラー出演者(全5シリーズ)
・定町廻り同心千秋城之介・・・加山雄三(1~5)
・筆頭同心早見茂太夫・・・千秋実(1)
・次席同心高瀬儀右衛門・・・近藤洋介(1~5)
・同心由良三九郎・・・田中邦衛(1)
・同心三保木大学・・・地井武男(1)
・同心日下兵馬・・・木村四郎(1)
・同心千葉左内・・・津坂まさあき(1~4)
・筆頭同心根津新兵衛・・・池部良(1)
・筆頭同心林田孫兵衛・・・小林桂樹(2~4)
・同心玉木新吾・・・森哲夫(2)
・同心頼母木肇・・・潮哲也(2~5)
・見習同心三枝源三郎・・・加納竜(2)
・同心島津半蔵・・・露口茂(2~4)
・見習同心立木十三郎・・・名高達郎(4)
・同心立花精一郎・・・沖雅也(5)
・同心日暮晋作・・・渡辺篤史(5)
・同心藤堂拳・・・倉田保昭(5)
・岡っ引勘八・・・橋本功(1~5)
・岡っ引嘉助・・・守田比呂也(1~5)
・岡っ引六助・・・中原成男(1~3)
・岡っ引留吉・・・西岡徳美(2~4)
・岡っ引佐吉・・・大林直樹(4~5)
・高瀬の子大四郎・・・小田敏治(1~5)
・富本節師匠お葉・・・浜美枝(1)
・大学の義父左十郎・・・小沢栄(1)
・南町奉行根岸肥前守・・・原保美(1)
・茶屋娘お清・・・村地弘美(1)
・孫兵衛の娘綾・・・瞳順子(2~3)
・小料理屋「藤の屋」女将おふじ・・・藤江リカ(2~3、5)
・内与力早水新之丞・・・北川欽三(4~5)
・小料理屋「桔梗屋」女将お艶・・・ジュディ・オング(4)
・同看板娘お涼・・・風祭ゆき(4)
・ナレーター・・・井上孝雄(1~5)
『事件記者』との関係では、近藤洋介、守田比呂也、原保美の名が見える。「ひさご」ならぬ「藤の屋」「桔梗屋」に屯するなど、『事件記者』の手法をそのまま踏襲したような場面があって興味深い。
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