韓流ドラマの話題ばかりが続くものの、前稿で書いた『帝王の娘スベクヒャン』をようやく視終えたところである。この物語は、凡そ5-6世紀頃、東城王・武寧王。聖王統治時代の百済国が舞台になっている。ただし、歴史の忠実な再現と言うより、同時代に構想を得た創作劇(早い話が「作り話」)に過ぎない。最近では、この種のドラマ(創作劇)が増えており、うっかり「史実」と誤認せぬよう注意が必要である。現に、スベクヒャンなる主人公すら架空の人物なのだからややこしい。
散々酷評しながら韓流ドラマに固執するのは大いなる自己矛盾とせねばならぬが、とりわけ韓流時代劇には、昨今の我が国内ドラマ(含む:時代劇)に欠けている【何か】があるからに他ならない。飽くまで勝手な想像ながら、第一に「放送コード」の違いがあるからではなかろうか。つまり、我国の場合、放送局側の自主規制が進むに連れて【差別語・侮辱語】【残虐シーン】等がテレビ画面から締め出されたため、感動に乏しい“ぬるま湯的ドラマ”しか作れなくなった事情がある。したがって、昔のドラマ(特に昭和40年代以前)など、該当音声が潰されて聞き苦しいこと著しい。甚だしきは欠番となった放送話も数多いのが現状である。。したがって、CS有料放送ならいざ知らず、まず地上波で再放送されることはほとんどない。
第二に、一口に時代劇と言っても、ほぼ近世「江戸時代(1603-1868年)」に限られる我国テレビ・映画界と異なり、古くは「三国《高句麗・新羅・百済》鼎立時代(356-668年)」から「李氏朝鮮時代(1392-1897年)」を経て「日韓併合(1910年)前後」までと幅広い。日本でも戦前・戦中・戦後まもなくまでなら、「平安時代(794-1185年)」から「戦国時代(1467-1590年)」までの各時代を舞台とする映画も探せばそれなりにあるようだが、平成の御世になってからはほとんど例を見ないように思う。韓流では秋(とき)の国王が物語の中心に据えられることが多い。共和制を採る現代韓国民にとって、国王など現存せぬため、単なる歴史上の一個人に過ぎず、気楽に受け止められるのであろう。ところが、「不敬罪」こそ廃されたものの、現に今上陛下がおわします【万世一系】の我国に於いては、現皇室に繋がる歴代天皇を単なる歴史上の一個人に見立てられない特別な事情にあって、無言・不文の制約に縛られて制作者側には悩ましい。天皇が歴史の表舞台に登場しない「江戸時代」ばかりを採り上げたがるわけ。
第三に、現代韓国人は現実逃避型なのか、現代人が過去へまたは逆に歴史上の人物が現代へタイムスリップするファンタジードラマが結構多く作られている。或いはおのれが見逃しているだけかも知れないが、我国ではあまり見掛けない。また歴史上の人物について、定説に逆らった描き方をされると激しい違和感を覚えてしまうが、彼の国ではそうでもないらしい。例えば『忠臣蔵』、程度の差こそあれ常に浅野家遺臣側が「善」であり吉良方が「悪」でなければならぬ。「ドラマ=作り話」なのだから定説を覆す自由度があってよさそうなのに、なぜかこの構図は強固にして崩れることはない。
ところが、甥の端宗(第6代朝鮮王)から王位を簒奪した世祖(第7代朝鮮王)など、我々(おっと誤解を避けるため「おのれ」と置き換えよう)の眼から観れば隣国の「弓削道鏡」としか映らず、決してドラマの主人公に成り得ない悪役中の悪役でしかないのだが、韓国では絶大な人気があるらしく、韓流ドラマも歴史を動かした大英雄であるかのように作られることも屡々、否、むしろ大多数といってよい。まぁ、我国とは【文化】も【歴史】も違うのだから致し方あるまい。
関係ないけど、目下視聴中の韓流時代劇を列挙しておく。
・太陽を抱く月(2012年;MBC)=BSフジ
李氏朝鮮時代が舞台の国王と巫女の創作悲恋物語
・階伯-ケベク-(2011年;MBC)=BS12
百済国末期の武将ケベクの生涯
『ソドンヨ』の第30代武王と善花姫(新羅王女)も出て来る
・王の顔(2014年;KBS)=BS-日テレ
李氏朝鮮時代第15代国王光海君が主人公の三角関係創作恋愛時代劇
・テバク(2016年;SBS)=BS-日テレ
李氏朝鮮時代第21代英祖期「戊申政変」がモチーフ
・三銃士(2014年;tvN)=BS-NHKプレミアム《日本語吹替え版》
李氏朝鮮時代第16代仁祖期の世子を取り巻く三銃士を描く創作活劇
・チョン・ドジョン-鄭道傳-(2014年;KBS)=CS-ホームドラマチャンネル
李氏朝鮮建国の功臣チョン・ドジョンの物語
・麗-レイ-(2016年;SBS)=CS-ホームドラマチャンネル
化粧品会社OLが建国間もない高麗国へタイムスリップ
8人の皇子たちと騒動を巻き起こすファンタジック恋愛コメディ
・花郎-ファラン-(2016年;KBS)=CS-衛星劇場
新羅国の貴族エリート集団“花郎”を中心とする青春時代劇
・王は愛する(2017年;MBC)=CS-衛星劇場
高麗国の王子と金持ち娘の創作恋愛時代劇
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