映画・テレビとも、ドラマ(劇=作り話)ばかりを話題にしているが、本来はドキュメンタリー(記録=実話)番組のほうが好きだった。とりわけ旅行記紀行物、誰もが外国を旅行するようになった今でも、この種の番組は根強い人気があるらしい。映画館では本編(通常二本、三本立て興業もあった)以外にも予告編やニュース映画が上映されてあり、むしろ「おまけ」の短編映画に興味があったほど。
ニュース映画アナウンサーは決まって竹脇昌作(明治43年-昭和29年;竹脇無我の父親)だった。やや早口で昂揚を抑えた語り口は今でも強く耳に残っている。またテレビでは、『新日本紀行』(昭和38年;NHK)や『兼高かおる世界の旅』(昭和35年;KRT→TBS)などの旅行番組を好んで視ていた。前者の放送時間帯は午後7時台だったと記憶するから、記録に拠れば昭和39年~昭和52年頃ということになる。後者はもっと古く、当方の中学生時分には既に放送されていた。海外旅行など夢想だにできなかった頃、しかも現TBS-TVが未だラジオ東京TVと称していた頃の話である。
なにぶんにも後者は、太古の昔のモノクロ映像ゆゑ再放送など期待もしてなかったが、実はCS放送TBSチャンネル2(有料)にて再放送されていることを発見。幸い、別番組見たさでチャンネル契約済であることから、さっそく録画して視てみた。今のところ第7回「黒い星のもとに(ガーナ;昭和35年放送)」と第12回「さいはてのスケッチ(ポルトガル;昭和35年放送)」だけだが、いやぁ、懐かしい。というより、本当は初見だったのかも知れない。というのも、自分の知る聞き手芥川隆行が登場しないからだ。
モノクロ映像なのに、赤・青・緑など色彩に関する言及が目立つし、訪問先国と日本との関係が殊更強調されるのが特徴。今では人種差別に繋がるとして死語同然の「黒人」「白人」が普通に使われる。アフリカ新興国ガーナはもちろん、大航海時代の覇者で欧州の一角ポルトガルでさえ極貧国のように映る。訪問先が先進大都会ではなく、好んで寒村が選ばれているせいだろうか。しかしながら、人々の表情が、驚くほど明るい。或いは多少の演出があるやもしれないが、この落差が【物質的な豊かさより精神的な豊かさ】という人間の普遍的な真理を覚醒させ、視る側の感動を呼び覚ますのである。徒に同情心を煽り立てるだけしか能のない現代テレビ報道姿勢とは似て非なるワザと言えよう。
ところで本題を逸れるが、先日『若い川の流れ』を採り上げた。その後継番組とも言うべき『颱風とざくろ』(昭和44年:日テレ)がCSチャンネルNECO(有料)で放送中。ドラマ自体、あまり関心を惹かないありきたりの恋愛劇に過ぎないが、「大きいことはいいことだ」の山本直純作曲になる主題歌『あこがれ』が素晴らしい。歌う森山良子は、奇しくも当方と生年月日が二日違うだけ。米国日系Ⅱ世の息女という境遇も、カナダ生まれの父を持つ私奴と似ている。そんな誼もあって贔屓にしている歌手の一人。蚊の鳴くような弱々しいその歌唱法は、どちらかと言えば嫌いな部類に属するが、媚び甘えるような声を作る韓流女性歌手と違い、地声なので外連味がない分むしろ逆に清廉に聞こえて嫌味を感じさせない。
調べたところレコードにもなっていない幻の佳曲である。したがって、番組を視た憶えがないので初めて聴く曲に違いないのだが、何故か懐かしく耳に響き落涙を禁じ得ない。当時流行った米国流フォークソングとは一線を画し、むしろ日本の伝統的な香りがする。明らかに我国独自の【学校唱歌】を起源とする歌だ。当時、これらを総称して「和製フォーク」と呼んでいたが、《folk song=民謡》だとすれば何のことはない、「日本民謡」とすべき代物ではないか。
『颱風とざくろ』-主題歌&挿入歌
歌名に適う上昇旋律が堪らない。それに引き替え、ジャズ風挿入歌『並木よ』は平凡。同じ作曲者(山本直純)の作とは思えない。
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