華流・韓流ドラマは、隣国にも拘わらず、我が国内ドラマと大いに趣を異にする。本邦がチャイナ文化圏ではない証左でもあるのだが、顔形がなまじ我々と似ているだけに欧米ドラマより莫大な違和感を覚える。時代劇なら遠い昔の物語なので「彼の国はこんな風だったのか」と気楽に視られるけれど、現代劇になるともういけない。登場人物がマンモニスト(拝金主義者)ばかりで辟易させられる。コメディ(喜劇)であれ、多くが身分・門地等に由来する階級差別的嘲笑に過ぎず、笑うに笑えない。恋愛劇なら財閥御曹司・令嬢を巡る恋敵同士の壮絶な争奪戦と相場が決まっている。要するに、何事も算盤尽くで人も物も奪い合い(ゼロサムゲーム)でしかなく、共存共栄・相互扶助といった発想がまるでない。甚だしきは生殺与奪・恋愛感情までが取引の材料に使われる殺伐とした展開に目を覆いたくなってしまう。
結局、歴史が異なるからに他なるまい。我国の場合、政体は幾度か変われど万世一系の天皇を戴く国体(国柄)は、太古の昔から不変である。しかるにチャイナ文化圏諸国では、異民族支配を含む易姓革命(王朝簒奪)の連続であった。ゆゑに中華人民共和国も大韓民国も戦後誕生した新しい国家に過ぎず、領内に住む各種民族の感情を別にすれば、滅亡した漢・唐・元・明・清らの国家や李氏朝鮮などとは歴史的に何らの繋がりも保っていない。新国家(王朝)は、前国家(王朝)を全否定することによってしかレーゾンデートル【raison d'être;存在理由】がないからだ。
こうした異国の歴史を知るには、その国の時代劇を視るに限る。もちろん、現代的価値観に基づいて脚色(歪曲)されていて史実と異なる一面を保つのも事実だが、民族的性質のルーツがそこにあるような気がして別の興味が湧く。その格好の題材として香港の武侠小説家金庸著『天龍八部』(1966年)がある。広く華字圏の人口に膾炙した人気小説だけに、映像化は映画4作・TV劇6作を数える。現在、衛星放送チャンネルNECO(CS223)にてTV最新作2013年版を放送中。小説自体が後に改訂されていて、「新版」を唱うだけあって最新改訂版に拠るのだとか。人間が空を飛んだり指一本で人を刺し殺したりのCGを駆使した映像は、まさにテレビゲームそのものといった風情。だが、結構愉しめる。
物語は、11世紀末宋代の中国大陸を舞台に、雲南大理国の武芸嫌いながら数々の絶技を身につけてしまう王子段誉、契丹人でありながら漢人として育てられた悲劇の英雄蕭(喬)峯、心ならずも戒律を破ってしまう少林寺の僧虚竹、古の大燕国の末裔で、一族の悲願である王朝復興を夢見る貴公子慕容復の4人の若者を中心に、親の世代が残した確執に運命を翻弄される若者たちの生き様を描いた群像劇である。
話の展開は錯綜しており、4人を巡る物語は時に独立して語られ、それが不思議な縁で結び合わされている。また、登場人物は善悪の観念では書き分けられていない。多面的で、それぞれが宿業を背負い、見えない因果の糸によって操られている。焦点も多重的で、舞台も雲南から江南、中原、北漠、西域へと目まぐるしく移ってゆく。運命流転の大河小説である。
題名は仏法を守る神々である天龍八部衆(天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩喉羅迦)に由来しており、物語自体も仏教的な思想に基づいて構築されている一面を持つ。
*主要登場人物4人*
・段誉(演者;キム・キボム=金起範:韓国ソウル出身米国人)
大理の鎮南王兼保国大将軍段正淳の息子。容姿端麗、琴棋書画を愛し、争いを嫌う平和主義者であり、大理段氏に伝わる絶技「一陽指」にも興味を示さない。だが、江湖で様々な事件や人物に遭遇するうち、偶然にも逍遥派の絶技「北冥神功」と「凌波微歩」を身につけ、更に家伝の「六脈神剣」まで習得してしまう。父に似て惚れっぽい性格であるが、どの少女とも相思相愛になったとたんに、親世代の因縁が発覚して結ばれることがない不運の持ち主である。無量山の洞窟で偶然見つけた玉像に生き写しの美少女・王語嫣に一目惚れし、その跡を追い続ける。江湖をさまよう中で意気投合した喬峯と虚竹と、義兄弟の契りを結んでいる。
・喬峯(演者;ウォレス・チョン=鐘漢良:香港人)
丐幇の幇主。武術の達人であり、降龍十八掌の遣い手。公明正大で豪放磊落な性格で、無類の酒好き。段誉と酒の飲み比べをして意気投合し、彼と義兄弟の契りを結んだ。名幇主として多くの人望を集めていたが、契丹人であるとの出生の秘密を暴露されたことで、丐幇を追放される。このとき、もと名乗っていた養父の姓である「喬」から、契丹人の両親の姓である「蕭」に姓を改めた。更に時を同じくして身近な人々が殺される事件が続発し、犯人と疑われたことで追いつめられてゆく。阿朱に好意を寄せられ、戸惑いながらも、次第に彼女の優しさに心が動いていく。
・虚竹(演者;ハン・ドン=韓棟;中国浙江省出身)
少林寺の僧。元は少林寺の菜園に捨てられていた孤児で、慈悲深く、仏教に深く帰依していた。だが、生まれて初めて寺を出た途端、奇妙な事件に遭遇し、逍遥派の掌門に指名されてしまった。世間知らずであるが、素朴で誠実な人柄であり、人を疑うことを知らないために、阿紫に何度も騙され、戒律を破らされてしまう。女人禁制の寺で育ったために、女性を見たこともなかったが、天山童姥の策略により出会った少女に恋をしてしまい、そのことが彼の運命を大きく変える。
・慕容復(演者;ソン・フォンイエン=宗峰岩:中国山東省出身)
姑蘇(現在の蘇州市)燕子塢参合荘の主。古に興った大燕国の末裔で、 家伝の独自の武術を身につけた文武両道で容姿端麗の貴公子。武林で、蕭(喬)峯と並び称せられるほどの使い手であるが、一族の悲願である王朝の復興に執着して、悪事を積み重ねていく。嫉妬深く根に持つ性格であり、また自尊心が高く傲慢。長年にわたり王語嫣から寄せられる好意に気づきながらも、一族の悲願のために、彼女を自殺未遂に追い込むほどの冷酷な性格である。
以上、日本語版ウィキペディアより
全54話は下記にて視聴可能。ただし音声・字幕とも北京語のみ、日本語翻訳なし。
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