年末恒例行事の一つに、ベートーベン『第九』演奏会がある。我国に於いて何時頃定着したのか知らないが、日生劇場こけら落とし(昭和38年)の際、カール・ベーム指揮ベルリンドイツオペラ『第九』特別演奏会がフジTVで生中継されたのを視た憶えがある。したがい、少なくともこの時点には既に定例化されていたと推察される。『第九』もよかったが、『フィデリオ』も素晴らしかった。おそらく、指揮者としての最盛期だったのではなかろうか。
我国独自の年末行事なら、言わずと知れた『忠臣蔵』。元禄15年12月14日の吉良邸討ち入りに因む。ただし当時の元号日付は旧暦。敢えて西暦に置換えると1703年1月30日なのだとか。だからといって、正月(1月)になっての討ち入りじゃサマにならないし、物語上も齟齬を来すため、無理矢理新暦12月14日にこじつけたのだろう。
付随音楽で言えば、芥川也寸志のNHK大河ドラマ『赤穂浪士』(昭和39年)テーマ曲が一番。映画音楽なら深井史郎(1907生-1959没)の名が思い浮かぶ。本業のクラシック作品は一度も聴いたことがないものの、管弦楽曲のほかカンタータや電子音楽まで作曲しているらしい。
深井史郎が関わった映画のうち、所有する作品は次のとおり。
・元禄忠臣蔵 前篇(昭和16年;松竹)
溝口健二監督、出演;河原崎長十郎、嵐芳三郎、小杉勇、三浦光子
・元禄忠臣蔵 後篇(昭和17年;松竹)
溝口健二監督、出演;河原崎長十郎、市川右太衛門、高峰三枝子、河原崎国太郎
・かくて神風は吹く(昭和19年;大映)
丸根賛太郎監督、出演;阪東妻三郎、月形龍之介、嵐寬寿郞、片岡千恵蔵
・天狗の安(昭和26年;東映)
松田定次監督、出演;阪東妻三郎、入江たか子、大友柳太朗、進藤英太郎
・牢獄の花嫁(昭和30年;東映)
内出好吉監督、出演;市川右太衛門、伏見扇太郞、田代百合子、長谷川裕見子
・赤穂浪士 天の巻 地の巻(昭和31年;東映)
松田定次監督、出演;市川右太衛門、片岡千恵蔵、月形龍之介、三浦光子
・剣豪二刀流(昭和31年;東映)
松田定次監督、出演;片岡千恵蔵、東千代之介、高千穂ひづる、月形龍之介
・白扇みだれ黒髪(昭和31年;東映)
河野寿一監督、出演;東千代之介、長谷川裕見子、田代百合子、阪東蓑助
・逆襲獄門砦(昭和31年;東映)
内田吐夢監督、出演;片岡千恵蔵、植木基晴、高千穂ひづる、月形龍之介
・旗本退屈男 謎の幽霊船(昭和31年;東映)
松田定次監督、出演;市川右太衛門、江原真二郎、田代百合子、進藤英太郎
・鳳城の花嫁(昭和32年;東映)
松田定次監督、出演;大友柳太朗、進藤英太郎、長谷川裕見子、中原ひとみ
・丹下左膳(昭和33年;東映)
松田定次監督、出演;大友柳太朗、大川橋蔵、美空ひばり、山形勲、松島トモ子
・旗本退屈男(昭和33年;東映)
松田定次監督、出演;市川右太衛門、桜町弘子、中村錦之助、北大路欣也
・忠臣蔵 桜花の巻 菊花の巻(昭和34年;東映)
松田定次監督、出演;片岡千恵蔵、中村錦之助、進藤英太郎、美空ひばり
・水戸黄門 天下の副将軍(昭和34年;東映)
松田定次監督、出演;月形龍之介、中村錦之助、美空ひばり、山形勲、丘さとみ
どれをとっても、これぞ「時代劇」といった音楽になっている。我が「忠臣蔵」映画の原点は、昭和31年版『赤穂浪士』。小学二年生時分に福岡の映画館で観ている。冒頭のタイトル曲を聴くだけで、期待に胸が高鳴ってくる。曲も好いがクライマックスは、立花左近(片岡千恵蔵)とその名を騙る大石内蔵助(市川右太衛門)の異常に長い無言の睨み合い。無音状態がただならぬ緊張感を呼び覚まして堪らない。無音の「休止符」に無限の音楽を知覚するのと同じ理窟で、昔の時代劇にはえもいえぬ独特の“間合い”があったものだ。今日の時代劇は言うに及ばず、大相撲の「仕切り」や野球の投球間隔からも“間合い”が消えて久しい。
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