音楽に興味を抱き始めたのは中学一年(昭和35年)の頃で、音楽の授業にレコード鑑賞の時間があった。ある日、シューベルト作曲未完成交響曲の感想を問われ「泉の如く湧き出る感じ」と答えたところ、先生にたいそう褒められたからである。世の中はLPレコード全盛期、しかもステレオ盤が主流になりつつあったが、音楽室備品の再生装置はいわゆる[電蓄]のまま、教材用レコードも圧倒的大多数がSP盤だった(と思う)。件の【未完成】は、ワルター指揮ウィーンフィル(戦前録音)のSP盤と記憶している。
そんなわけで、我が音楽的関心はクラシック(古典音楽)に始まっている。従い、最初に買ったレコードは、昨年10月30日付記事のとおり。当時を過ごした大分市繁華街(駅前中央通り周辺)には、レコード店が確か三軒あった。店頭に並ぶ流行歌(歌謡曲)の類は、ドーナツ(EP)盤よりSP盤のほうが目立ったほど。親に買って貰った日本コロムビア製レコードプレーヤーはSP盤も再生可能だったが、今日までつひぞ買う機会に恵まれない。今や生産中止であるがゆゑにむしろ骨董的値打ちが生じ、却って【高嶺(値?)の花】となりぬべし。
なにぶんにもクラシックから入った関係上、レコードは30糎or25糎LP盤(33回転)中心にならざるを得ない。ドーナツ盤(45回転)ではないが、17糎LP盤([コンパクト盤]と称した)ならメンデルスゾーン作曲バイオリン協奏曲(ギトリスVn、スワロフスキー/ウィーン・プロムジカ管)が、初めて買ったレコードと言うことになる。このいわゆる“メン・コン”も、音楽授業のレコード鑑賞によって知った曲。学校で聴いたのは、確かクライスラーVnの戦前録音SP盤だったけど。
本題のドーナツ盤となると、収録時間の関係で、洋楽ならポピュラー系か邦楽では歌謡曲(流行歌)等に限られてしまう。尤も、テープ録音の技術がなかった戦前のSP盤全盛期には、交響曲の録音でさえ片面約4分の収録時間に合わせて演奏を一時中断していたという。ただ、西部劇映画が好きだったので、その映画音楽ソノシート(サントラ盤でなく邦人楽団)は比較的早く買っている。そして、TV映画『ローハイド』(フランキー・レイン)が栄えある最初のドーナツ盤であった。半世紀(50年)以上も前のこととて現物は忘失してしまったが、今なおB面『エル・パソ』(マーティ・ロビンス)とともに耳に残っている。
もう一枚は、ほぼ同時期に買った70粍映画『アラモ』の挿入歌。マーティ・ロビンスとブラザース・フォアが歌っている。こちらもジャケットが見当たらないが、レコード現物だけなら手許にある。ただしレコードを買ったからと言って、『ローハイド』も『アラモ』も、テレビ・映画そのものを実際に観たわけではない。おそらく、ラジオを聴いて、音楽のみ先行して知っていたのだろう。そうそう、件のソノシートには『荒野の七人』も入っていた。この映画、先日BS-NHKプレミアムの放送で初めて視た。凡そ半世紀を経てようやく本篇にお目にかかった次第。
歌謡曲ドーナツ盤(橋幸夫、佐川ミツオら何故かビクター系が多かった)は専ら友人宅で聴かせてもらっていた。これに触発されたわけではないものの、歌謡曲第一号として植木等の『スーダラ節』を購入せしめたのであった。東芝系はクラシック(Angel)LPレコードを含めてみんな赤色レコードだったのですよ。今では復刻版レコードも所有しているが、こちらはは普通の黒色レコードになっている。まぁ、ドーナツ盤は、【懐メロ】に目覚めた昭和50年代から急速に増え始め、今では100枚ほど保っている。今ではCD盤からWalkmanに落としているので、オリジナルのドーナツ盤自体を聴く機会はまずないが、物理的に再生できないわけではなく、聴こうと思えば聴けるじょうたいではある。
デジタル化されたCDとアナログレコードとの違いを鉄道に喩えるならば、最新の新幹線と老朽化したSL(蒸気機関車)と言うことになろうか。前者は合理的かつ近代的でカッコいいかも知れないが、その分冷たさを否めない。後者は、愚直に生きる人間の姿そのもののように映る。アナログレコード固有の針音(スクラッチノイズ)を単なる【雑音】と捉えるか、懐かしさを呼び覚ます【心地よい響き】に聴こえるか、聴く者の【感性】を試すのである。
コメント