邦人作曲家を語る上で、映画・TVドラマの音楽を逸するわけにはいかない。それほどズブズブの関係にあったということ。つまり、クラッシック作曲家にとって、戦後の混乱期に本業だけでは食べていけず、映画やTV番組音楽の分野で一時的なアルバイト(?)をしていたわけである。
現に、渡辺浦人の名を知ったのは映画『赤胴鈴之助』だし、伊福部昭も同じく映画『ゴジラ』がきっかけ。芥川也寸志の場合は多少事情が違って少なくとも自分は、作曲家である前に作家芥川龍之介の三男であることを先に知った。彼が作曲家であることを覚醒させたのは、NHK大河ドラマ『赤穂浪士』(昭和39年)である。
なお、当時、“大河ドラマ”なる呼び方はまだなかった。“大型歴史ドラマ”とか“大型時代劇”と呼ばれていたと記憶する。娯楽が少なかった昭和30年代のことゆゑ毎週視ていたし、おのれの『忠臣蔵』に関する知識はこのドラマに拠るところが大きい。そんなわけで初期の大河ドラマはよく視ていたし愉しみにしていた。しかし、1970年(昭和45年)以降、社会人になって仕事に追われる物理的事情もあったが、歴史を逸脱した内容に嫌気がさし、まったく見向きもしなくなった。
いちおう、ご参考までにおのれが視ていた頃の初期作品だけ列挙しておこう。何よりN響演奏のテーマ曲がスケール雄大で素晴らしかった。
第1作『花の生涯』(昭和38年)音楽;富田勲、主演;尾上松緑
第2作『赤穂浪士』(昭和39年)音楽;芥川也寸志、主演;長谷川一夫
第3作『太閤記』(昭和40年)音楽;入野義朗、主演;緒形拳
第4作『源義経』(昭和41年)音楽;武満徹、主演;尾上菊之助、藤純子
第5作『三姉妹』(昭和42年)音楽;佐藤勝、主演;岡田茉莉子、藤村志保、栗原小巻
第6作『龍馬がゆく』(昭和43年)音楽;間宮芳生、主演;北大路欣也
第7作『天と地と』(昭和44年)音楽;富田勲、主演;石坂浩二、高橋幸治
第8作『樅ノ木は残った』(昭和45年)音楽;依田光正、主演;平幹二朗
第9作『春の坂道』(昭和46年)音楽;三善晃、主演;中村錦之助
第10作『新平家物語』(昭和47年)音楽;富田勲、主演;仲代達矢
第11作『国盗り物語』(昭和48年)音楽;林光、主演;平幹二朗
音楽担当には、冨田勲、芥川也寸志、入野義朗、佐藤勝、武満徹、三善晃、間宮芳生、林光ら当時の若手作曲家の名が並ぶ。このうち冨田勲、佐藤勝は映画(TV)音楽に特化した感じだが、外はみんな歴としたクラシック作曲家である。ただ、前稿でも書いたように当時としては、芥川・入野を除いて作風が前衛音楽といっていいほど先進的なものだった。
その意味で芥川也寸志の曲は、本業(クラシック曲)でも親しみやすい。また間宮芳生だけは例外で、なぜか好みに合致していた。おそらく北杜夫原作『楡家の人びと』(TBS;昭和40年;東野英治郎主演)の音楽を担当していて、そのテーマ曲が気に入っていたからだろう。因みに渡辺浦人や伊福部昭は、山田耕筰に続く戦前からの世代なので、上記若手作曲家らの前衛的な作風とはかなり聴感が異なる。
渡邊浦人作曲-交響組曲『野人』(昭和16年)
by 岩城宏之指揮NHK交響楽団
芥川也寸志作曲-NHKドラマ『赤穂浪士』オープニング(昭和39年)
by 芥川也寸志指揮コンセール・レニエ
武満徹作曲-ノヴェンバー・ステップス(昭和42年)
by 岩城宏之指揮NHK交響楽団/鶴田錦史(琵琶)/横山勝也(尺八)
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