些か言い訳めくが、先月24日、デスクトップPCを買い換えてPC引っ越し作業に時間をとられたため、こちらの執筆まで手が回らなかった。学生時分は、理数系学科が赤点だらけでしたからね。機械いじりそのものは嫌いじゃないけれど、オツムのほうがついて来ないのですよ。悪戦苦闘の末、今月初旬頃までかかってしまった。
引っ越し中、長らく放かってあった外付けHDDからレコードやカセットテープをPCに取り込んだファイルが見つかった。ファイル日付が2009年頃だから、その頃熱中していたのだろう。そう言えば、ソフト(レコード、カセットテープ、ビデオテープ)はあっても、再生装置(レコードプレーヤー、カセットデッキ、ビデオデッキ)がイカレて使い物にならなかったため、慌てて買い換えたのだった。
世がデジタル時代に入り、往年のアナログ再生装置が次々と市場から姿を消すハメになって行ったが、この頃が中古品でなくとも現行品を手に入れられる端境期だったのではなかろうか。ただその時、レーザーディスク再生装置は既に生産終了していて現行品が一つもなかった。
2009年当時、レコードプレーヤーとして買ったのが、DENON社製音聴箱(“おとぎばこ”と読ませるらしい)GP-S30。確か、今はなき日本コロムビアファミリークラブの通販で購入せしめたはず。SP、LP、EP等、すべてのレコードが聴けてなかなか重宝ですよ。でも飽きっぽいので、もう放かってありますけどね。但し、聴きたければ、何時でも使える状態にはある。
レコードから録ったということもあるが、“懐メロファン”ゆゑに件のファイルは昔の録音ばかり。ところが、パソコンやDAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー)、イヤホン(ヘッドホン)、PHPA(ポータブルヘッドホンアンプ)に至るまで、デジタル音源を前提としているためか、尽くアナログ(旧録音)の再生が苦手。組み合わせによっては、聴くに堪えない音になってしまう。
そこで目をつけたのがアナログ時代の「真空管」。自分の子供時分のラヂオやテレビには必ずこれが入っていた。ゆゑに電源を入れても数十秒ほど待たないと音が出ないし映像も映らなかった。ただオーディオに関して言えば、貧乏学生の身に「真空管アンプ」は高価だったし、トランジスタ化が進んでいたので「真空管」で“聴いた”憶えはない。
つひに買ってしまいましたですよ、「真空管PHPA(CarotOne FABRIZIOLO EX)」。もともとの製品自体はイタリアの新興オーディオメーカーのものだが、日本の代理店(ユキム)で独自のチューニングを施しているらしい。商標名のキャロット(人参)をイメージしたカラーリングなのだろうが、赤色というより橙色に近い。いや待てよ、[Carrot]でなく[Carot]となっていて“人参”とは微妙に綴りが違うな。
さて、件のファイルの中で、少女趣味と謂われようが断然好きな曲が二葉あき子『純情の丘』。LPから録ったものなれど、SP盤特有の盛大な針音が入っていて、まるで“竹藪の火事”状態。ついては、ネットにあがっている同曲をさっそく聴いてみよう。
☆ 純情の丘-二葉あき子(昭和14年)
☆ 純情の丘-髙石かつ枝(昭和38年)
この曲を個人的な好みで言わせてもらうなら、迷わずオリジナル盤(二葉あき子)を採る。前者の24歳時録音に対し、後者は16歳(高校二年生)時というハンデからか、明るく健康的なのはよいが「乙女心」に必要な“恥じらい”が巧く表現できていない。これも戦前と戦後の「時代の空気」が違うからだろうか。
関係ないけど、髙石かつ枝さんは自分より一学年だけ上級生のほぼ同世代。この年(昭和38年)の「紅白歌合戦」では、学生服の舟木一夫に対抗してセーラー服姿で歌ってましたね。現実の高校生だったわけだから、制服がよく似合っていた。時代の流れとはいえ、平成の御世になって、会社や学校から次々と制服が廃止され、旧き佳き日本の風俗が消えつつあるのは、まことに寂しい限りである。
で、肝腎の「真空管PHPA(CarotOne FABRIZIOLO EX」を通して聴くとどうなるか。“Exclusive Edition”の名に恥じぬ素晴らしさ。特筆すべきは、シュアー社製イヤホンSE-535LTDがよい意味で豹変したこと。保有イヤホン三器(ほかはゼンハイザーIE80、ウェストンWST-W40)中で最もデジタル指向が強く、なかんずく“懐メロ”を大の苦手としていたが、刺々しい音の角が取れて和みが加わった。耳障りだったSP盤特有の針音が、むしろ心地よく響く。
何より、音が一層生々しくなって実演を聴くかのよう。SE-535LTDはもともとモニター系イヤホンだから、解像度を誇るのは当たり前だが、それに付きまとうデジタル臭さ(曖昧さを許さない二者択一信号)が薄れた感じ。世の中がそうであるように、音にも二者択一のデジタル信号では伝えきれない部分がある。飽くまで勝手な想像だが、落ちこぼれた部分を「真空管」が拾った結果ではなかろうか。
「ハイレゾ」だの広周波数帯域といった、とかく理論値競争が盛んなオーディオ業界だが、音楽は「感性」に属する分野。「理性」を競っても仕方あるまい。
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