昨夜から大分へ来ている。昭和32年(1957)4月~昭和37年(1962)7月の約5年間、子供時分を過ごしたゆかりの地である。羽田から大分まで飛行時間にして1時間20分。ところが驚くなかれ、空港から大分市内へ向かうバスは、なんと1時間30分かかった。さして通行量が多くない杵築IC~別府市内間が、大渋滞してノロノロ運転。なぜだろうと思ったら、信号の数が異常に多い。50メートル毎にある感じ。
本日は懐かしき松栄山大分縣護國神社にお参りしてきた。何を隠そう、当ブログのタイトル写真(昭和33年3月撮影)がこの神社。今は整備されて立派になっているが、昔は終戦直後のままだった。自分は参道とは反対側、つまり西側の麓に住んでいた。ゆゑに正規の参道を使わず、獣道を登って本殿裏側から入るのを常とした。そして、境内でチャンバラごっこしたことを今でも憶えている。
神社北側麓にある中学校(戦後創立)に通っていたので、体育の授業では、“松栄山一周”と称する参道階段(確か百十二段)の駈けのぼりに始まり車道を下って戻る“地獄の訓練”をよくやらされた。後輩たちは、今でもやらされているのだろうか。
さてここからが本題。
歴史的仮名遣いにしかない「ゐ」と「ゑ」は、現代仮名遣いになって「い」と「え」に統合されてしまった。当然ながら戦後生まれの自分は、学校では教わってない。小学低学年の頃、まだ教わらない漢字だとばかり思い込んでいた。五十音表では、ともに「わ行」に分類される。知らなかったがパソコンのローマ字変換では、それぞれ「WI」「WE」と入力して変換するらしい。
面白いと言ってはナニだが、タイの知人にวินัย ปินยา(Winai Pinya)という日本語ガイドがいる。発音の平仮名表記は“うぃない・ぴんやー”になるのだが、意に反して多くの日本人から“ういない(WUINAI)”さんと間違って呼ばれるため、とうとう別名に変えてしまった。現代仮名遣いゆゑに生じた悲劇(?)である。歴史的仮名遣いの“ゐない”であれば、より近い発音だったろうに。
自分の子供時分は、歴史的仮名遣いで育った大人たちばかりだった。したがって、振仮名どおり正確に発音する老人も多かった。例えば「井戸」は“いど(I-DO)”でなく“ゐど(WI-DO)”。「男の子」は“おのこ(O-NO-KO)”でなく“をのこ(WO-NO-KO)”。「関西」は“かんさい(KAN-SAI)”でなく“くわんさい(KWAN-SAI)”といった具合。
ただ「ゑ」となると歴史がもっと複雑で、奈良時代頃までは“WE”と発音されていたのが、その後「や行」の“え(YE)”に統合されたらしい。現代国語で「日本円」は、“にっぽんえん(NIPPON-EN)”だが、本来的には一万円札のとおり“にっぽんゑん(NIPPON-YEN)”である。奈良時代以前の先人は、“にっぽんうぇん(NIPPON-WEN)”と読んだのか。
ところで、「は(HA・WA)」と「へ(HE・WE・YE)」の発音に遣い分けがあるのはなぜだろう。この謎に迫ってみた。
ウィキペディアによると、
語中のハ行音がワ行に発音される現象(ハ行転呼)が奈良時代から散発的に見られ、11世紀初頭には一般化した。この現象により、語中・語尾の「ヘ」の発音が [he] から [we] に変化し、ヱと同音になった。これにより語中の「へ」と「ゑ」の使い分けに混同が見られるようになった。12世紀末には、『三教指帰注』(中山法華経寺蔵、院政時代末期の加点)に「酔はす」(ゑはす)を「エハス」とする例があるなど、ヱとエの区別を失うものも散見されるようになる。
とある。なるほどねえ。
挨拶語の「こんにちは」は“KON-NICHI-WA”と発音するが、「こんにちわ」と書くのは誤り。歴史的経緯を学校で教えないせいだろう、この間違いを犯す若者が増えてるように思う。また、語中語尾の「へ」は、「あ行」の“え(E)”と区別して、正しくは“ゑ・いぇ(WE・YE)”などと発音するんですね。勉強になります。
夜には、当地の知人お二方と久しぶりに語り合った。独身の後輩氏は近々ご結婚なさるとか。羨ましいなあ。
《追伸》 10月21日(月)
どうでもいいけど、「愛してる」という意味の韓国語“사랑해(SA-LANG-HAE)”を平仮名にすると“さらんへ”だが、一文字ずつ区切らず連続で発音されるので、実際には“さらんげ”と聞こえる。また、同じ意味のタイ語は“รักคุณ(RAK-KHUN)”で、これも“らっくくん”でなく“らっくん”となる。
「日本円」に関連して、中国の通貨単位は「元(YUAN)」であるが、聴感上は“ゑん(YEN)”と聞こえる。実際、お札には「元」でなく「圓(円)」と印刷されている。韓國の「원(WON)」も、元々の漢字は“元”だそうな。「원」は“ウォン”と片仮名表記されるが、なぜか“ウオン(UON)”と読み違えてしまいがち。ここは、ア行の「オ」と区別したワ行の“ヲン(WON)”にしたほうが、より原音に近くなるのでは? なお、韓国語の場合、金氏(김씨)は“きむっし(KIM-SSI)”だが、安東金氏(안동 김씨)と語中に入ると“あんどん・ぎむっし(AN-DONG-GIM-SSI)”と濁って発音される。(10月22日追記)
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