またまたイヤホンの話です。SHUREのSE535LTDのイヤーパッドには、購入時のままフォーム型(マニアの間では“弾丸”と言うらしい)Mサイズを耳に合わせてLに換えただけで使っていた。しかし、シリコン型や黄色いコルク栓みたいなヤツなど、いろんな種類のチップが付属していて、せっかくだから試してみた。
これは驚いた。装着感が違うのは当然としても、鳴り方までまったく変わってしまうではないか。このうち、形状が特異で装着するには勇気が要りそうなトリプルフランジ(俗称“三段きのこ”)が自分にはベスト。好みの音色で高域から低域までバランスよく鳴ってくれる。耳に吸い付くようにぴったりフィットし、装着感も大満足。ポタアン(iBasso A01)のせいもあって基本的に明るく元気のよい鳴り方をするので、哀感漂う感傷的な曲には向かないが、今ではお気に入りのIE80(装着感がいまいち)を差し置いて、専らこの組み合わせを愛用している。
話題が変わるが、なぜか華字圏の古典音楽(クラシック)CDを、民族楽器盤を含めて約50枚ほど所有している。ただし、現地土産としてではなく、いずれも秋葉原の石丸電気CD店で買ったものばかり。華字圏旅行で撮ったホームビデオのBGMに使うつもりだったようだ。クラシックと言っても戦後の作品ばかりだから、正確には「現代音楽」と言ったほうが良いかもしれない。肝腎の曲が、中国共産党を無条件に礼賛するかのような政治プロパガンダ臭がして、どれもこれも気に入らない。長らくCD棚に埋もれたままだったのも、そのせいであろう。
所有CDは概ねHK(香港)レーベルが中心で、中には香港宝麗金(ポリドール)のPHILIPSレーベルや台湾福茂唱片(英国DECCA系)のものまであるが、不思議なことに本家本元の中国唱片製は皆無。これらのCD(当時は“コンパクトディスク”と称した)を買ったと思われる'80年代末~'90年代初頭は、先の大戦の同盟国側日・西独と連合国側英・米・蘭の五カ国しか製造技術がなかった。ゆゑに、初期の頃のHKレーベルには、Manufactured In JAPAN By NIPPON COLOMBIA(DENON)との文字が見える。何のことはない、CD自体は日本で製造されていて、その逆輸入品を買ってたわけだ。日本コロムビアのロゴシールが堂々と貼られたものさえある。
日本関連でもっと書くと、華字圏オーケストラが総じてアマチュア並みの水準だったことが窺える。総本山の中央交響楽団さえ聴くに堪えない。日本からはCD製造以外にも、演奏陣に東フィルほかのオーケストラをはじめ、指揮者では福村芳一、バイオリンの西崎崇子などを送り出している。華字圏奏者と聴き比べてみると、自分が日本人だからかも知れないが、さすがである。
例えば李煥之作曲の「春節序曲」。
許知俊指揮中央歌劇院交響楽団
中国国内ではトップクラスの楽団かも知れないが、腕っぷしで楽器を鳴らす感じでニュアンスもヘチマもなく、自分の耳には音楽というより騒音に近い。
顧寶文指揮台灣愛樂民族管絃樂團《民族楽器編曲版》
大陸とは政治思想を異にしていても、音楽の世界は別なのかこの曲のYouTube映像には台湾の楽団によるものが多い。しかも、民族楽器編曲版だから、むしろ本家より中国風味が出ている感じ。
それで以て左画像のCDでは、林克昌指揮東京フィルハーモニーがこの曲を演奏している。1979年埼玉県入間市民会館ホールでの録音。CD製造も日本コロムビアで、指揮者を除き純日本製(?)というわけ。実際に聴いていただけないのが残念だが、純音楽として聴くならこれが当該曲のベスト盤ではないかと思う。祭りの後の静けさを思わせる中間部オーボエソロに続く哀愁を帯びたチェロの唸りが何とも言えない。中国の楽団はとかく職業的義務感に基づく機械的な演奏といった印象を否めず、音楽のキモである聴覚を通して心の琴線に触れるような人間味溢れる要素に乏しいのである。
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