『純情の丘』 - 自分にもよくわからないが、なぜかこの歌が好きだ。“女々しい”と誹るのは勝手としても、かといって嫌いになる術を誰も知るまい。もちろん、自ら歌うことはなく、鑑賞一辺倒にすぎない。
もともとは戦前映画『新女性問答』の挿入歌らしい。戦後生まれの当方は、懐メロに興味を持ち始めた二十歳代後半まで、当然ながら聴き覚えがなかった。
件の映画の一場面を見つけた。
☆ 新女性問答(昭和14年) ☆
う~む、女だらけの映像に目が眩みそう。当時は娘役ながら、自分の世代から観ると、錚々たる母親役女優がずらり。言葉遣いにも「時代」を感じさせてくれますね。自分には経験し得ない世界です。
☆ 二葉あき子/純情の丘 ☆
こちらがオリジナル盤。この時代(昭和14年)だからこそ、歌詞も活きてこよう。西條八十の意図を知る由もないが、女性が勝手気ままに生きて行ける世の中ではなかったことだけは確かだろう。
☆ 高石かつ枝/純情の丘 ☆
こちらは、昭和38年のリバイバル盤。“高石かつ枝”の芸名が凄い。映画『愛染かつら』(昭和13年)のヒロインと同姓同名。事実、その主題歌「旅の夜風」をリバイバルで歌ってデビュー(昭和37年)している。彼女はちょっぴり先輩なれどほぼ同世代なので、つい当時の自分を思い出す。映像は映画「林檎の花咲く町」(昭和38年)でしょう。
こうして二つの映画を見比べると、あくまで“作り話”の世界ではありますが、戦後声高に女性解放が叫ばれたにも拘わらず、世の中は確実に《男優位社会》を引きずっていたのですね。また、バックの管絃楽編曲に「時代」が反映していて面白い。しかし、二葉さんの歌声に濃い翳りを感じるのに対し、高石さんは遙かに明るく聞こえるのは、単に持ち味の違いだけだろうか。やっぱり歌い方にも「時代」があるように思う。
ところで我が高石さん、歌詞中《白鳩》の箇所を、今風な“しろばと”でなく、古風な“しらはと”と正しく歌ってるのが偉い。いや、作詞・作曲者とも存命の頃だから、間違うわけにもいかなかった?
余談ながら同じ昭和38年、橋幸夫に「白い制服」がある。その歌詞に《白衣の天使》が出てくる。“はくいのてんし”なら、ご承知のとおり看護婦の美称。ところが実際には“びゃくえのてんし”と歌われている。高一だったから、レコードなど持ってやしない。当然に耳から入る歌詞を頼りにあれこれ想像を巡らせた。しかし、“びゃくえのてんし”じゃ看護婦という職業をイメージできなかった。バカである。
後年、まだペえぺえの新入社員だった頃、青春歌謡が好きな同年齢の女子事務員が居て、FMからエアチェックしたカセットテープを貸してあげた。彼女曰く、「これ“びゃくえのてんし”、看護婦さんの歌でしょ? 懐かしい。」だって。何のことはない、曲名を間違えていたわけだが、おかげで“びゃくえのてんし”と看護婦がようやく結びついた。
ちょっと映像がアレ(↓)ですが・・・。
☆ 橋幸夫/白い制服 ☆
なお、従軍看護婦を歌った戦中の国民学校初等科唱歌『白衣の勤め』は、素直に“はくいのつとめ”と歌えばいいようだ。
☆ 白衣の勤め ☆
おしまひ。
コメント