☆ 天下国家を治める
天下國家を治むると云ふは、及ばざる事、大惣の事の樣なれど、今天下の老中、御國の家老年寄中の仕事も、この庵にて咄し候事より外はこれなきものなり。これにて成程治めてやる事なり。結局あの衆は、心元なき事あり。國學知らず、邪正の吟味せず、生れつきの利發任せにて、諸人這ひ廻り、おぢ畏れ、御尤もとばかり申すに付、自慢私欲出來るものにて候なりと。
【 訳 】
天下国家を治めるということは、一般の人には到底及びもつかない、大変なことのように考えられがちだが、現在、幕政の中心にある老中や藩家老、年寄などの仕事も、私がこの草庵で今迄話してきたことの外には これといって特別のやり方をしているわけではない。私の話した心得によって、国を立派に治めていけるものなのである。
結局のところ、あの人々には何か安心できないところがある。御国の伝統も知らず、聖者の判断もせず、ただ生まれつきの才気に任せて仕事をしているからである。みんなが権力を恐れてへいつくばり、ご無理ご尤もなどと頭を下げてばかりいるので、いよいよ慢心と私欲にとらわれていくものだからである。
常朝がいう“国家”“国学”とは、今のそれとは多少概念が違うような気がします。つまり、日本全体を指す“国”というよりも、藩単位を“国”と認識していたのではなかろうか、と。
不思議なことに、現代の政治情勢とちっとも変わっていないようで面白いですね。
『葉隠』シリーズは、いちおうこれで終わりとします。
ありがとうございました。
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