☆ 平和な時代の言葉
武士は當座の一言が大事なり。たゞこの一言にて武勇顯はるるなり。即ち治世に勇を顯すは詞なり。亂世にも一言にて剛臆見ゆと見えたり。この一言が心の花なり。口にては云はれぬものなり。
【 訳 】
武士は最初の一言が大切である。ただこの一言で武勇が顕れるものだ。即ち、平和な世にあって勇を示すのは詞(ことば)である。乱世であっても、一言で剛勇の心がわかると考えられるのである。いわば、この一言が心の花なのだ。つまり、口に出しては到底言われない性質のものなのである。
【 解 説 】
戦乱の世に戦乱の世らしい勇ましい言葉を用い、平和な世には平和な世にふさわしい、優しい言葉を用いるのは武士ではない。武士にとって大切なのは論理的一貫性であって、乱世には行動によって勇気を顕し、治世には言葉によって勇気を顕さなければならない。これは、人間の行動が人間の内心を規制するという考えの根本である。
なかなか解釈の難しい項ですが、言行一致と言葉の大切さを教えているのでしょうか。「武」の本質が「勇」だとすれば、言葉にも行動にも「勇」が必要なのでしょう。
三島の解説は、自分が日頃考えていることとは正反対です。すなはち、人間の内心が人間の行動を規制する、と思っていました。とはいえ、どちらが正しいかという問題ではなく、行動と内心は相関関係にある気がします。
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