☆ エゴティズム
人事(ひとごと)と云ふは、大なる失なり。誉むるも似合はぬ事なり。兎角我が丈をよく知り、我が修行を精出し、口を慎みたるがよし。
【 訳 】
人のことをあれこれ言うのは大きな損失である。かといって、誉めるのも似合わないことである。とにかく身の程をよく知って、自分自身の修行に努力し、口を慎むのがよい。
【 解 説 】
エゴティズムはエゴイズムとは違う。自尊の心が内にあって、もし自ら持すること高ければ、人の言行などはもはや問題ではない。人の悪口は言うにも及ばず、また取り立てて人を誉めて歩くこともない。そんな始末におえぬ人間の姿は、同時に『葉隠』の理想とする姿であった。
『葉隠』に言われなくとも、他人の品定めなどするより、己のことこそ大切、というのはわかりますが、ついあれこれ言いたくなるのが人情。わかっちゃいるけどやめられない、のですよね。
「エゴティズム」は、三島由紀夫の解説に付けられた表題で、自我を特に重視し、これを行動の原理とする性向。主我主義。だそうです。一方、「エゴイズム」は、自分の利益を中心に考えて、他人の利益は考えない思考や行動の様式。利己主義。となっています。同じようでも、ずいぶんと意味合いが違うようですね。
わたくしの場合、類い稀なる日本精神の特徴を「利他的自己中心主義」と名付けてみたりしました。実は、現代に蔓延る「利己主義」とは似て非なる対極をなす考え方ですね。戦前や戦前教育を受けた人たちで社会が形成されていた昭和三十年代頃までの映画を見ると、「お役に立つ」という言葉が頻繁に出てきます。
この「お役に立つ」は、世のため人のためという大仰な気負いは感じられないものの、帰属する共同体(地域・組織・国家等)の一員として、その責務を果たしたい心が発する言葉ではないでしょうか。他国の人は、常に自己中心的であるが、あくまで利己(己を利する)の発想であり、利他についてはまったく眼中にないように思います。
こうしてみると、日本人本来の「エゴティズム」を忘れ、知らず知らずに他国と同じ「エゴイズム」へ走っているのが多くの現代日本人、と言えなくもないですね。
ありがとうございました。
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