☆ 若いうちは苦労せよ。
「奉公人の禁物は、何事にて候はんや。」と尋ね候へば、「大酒・自慢・奢なるべし。不仕合せの時は気遣ひなし。ちと仕合せよき時分、この三箇条危なきものなり。人の上を見給へ、やがて乗気さし、自慢・奢が付きて散々見苦しく候。それ故、人は苦を見たる者ならでは根性据わらず、若き中には随分不仕合せなるがよし。不仕合せの時草臥るる者は、益(やく)に立たざるなり。」と。
【 訳 】
「奉公人にとって、やってはいけないことは何でしょうか。」と聞いたところ、「大酒・自慢・贅沢であろう。不運の時は構わない。少し幸運だったりすると、この三項目は命取りとなりがちだ。
他人の身の上を見よ。ちょっと上手く行ってると、次第に調子づいて、自慢・贅沢がちとなって、まったく見苦しい限りである。だから、人は苦しい目に遭った者でなければ、根性が据わらないもので、若いうちは、とかく苦労の多い方がいい。苦労が多く不運の時、疲れてしまうような人は、役に立たないからだ。」との答えだった。
三島由紀夫の解説はありませんが、これも失敗談としての身に覚えがある教訓です。
事が上手く運んでいる時に調子づくと、油断が生じるんですね。これがいけない。失敗に直結する主要な原因になり得ます。
現役時代、機密書類破砕用の大型シュレッダーを扱ったことがあります。怖いですよお。覗き窓の内側で、巨大な鋸がグルグル回っている。そして、破砕した紙屑を自動でビニール袋に詰める仕掛けになっています。ところが、袋が時々パンクして、手動でやるハメになるんです。上下左右から鉄の腕が出てきてビニール袋を絞り上げ、袋を切断するのですが、絞り上げる直前に己の腕を突っ込まなければならない。うっかりすると、己の腕毎切断されてしまいそう。おお、こわっ。
最初は仕掛けがわからず、怖い。仕掛けを知ると、なお怖くなる。それでも、要領がわかって多少馴れてくると、「こんなもん軽いもんよ。」といった油断が生じるんですね。特に、若い女の子なんかが来ると、いいとこ見せようとしたがる。自分の場合、熟達する前にお役御免となって、身体損傷の憂き目に遭わずに済みましたが、幾人かの犠牲(?)者が出たそうです。
上記は、『葉隠』の言う「大酒・自慢・贅沢」には該当しませんが、いずれにしても、「慢心」を戒めた教訓でありましょう。自分は超下戸ゆゑ、大酒の心配はなし。赤貧生活では、贅沢は望むべくもなし。注意すべきは、自慢でしょうか。
そういう意味では、蟒蛇(うはばみ)で、かつ裕福な人は、案外お気の毒な境遇と言えなくもありませんね。
ありがとうございました。
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