みなさま、こんにちは。
受難曲から始めましょう。
「マタイ傳」と「ヨハネ傳」の二曲が残されています。それぞれ約三時間と約二時間のともに大曲です。こんな長時間ならでは、演奏を聴くために教会へ行くようなものですね。
どちらかと言えば、前者が内省的で後者は劇的とされ、似ているようで曲調がまるで対照的です。どちらも聖句(聖書の言葉)を基にしています。前者の場合は、マタイ傳福音書第二十六章第一節から第二十七章第六十六節まで。長くなりそうですから、本稿は「マタイ傳」に絞ります。
エヴァンゲリスト(福音史家)が語り部となって、イエスやユダ、ペテロ、ローマ総督ピラトなどが登場し、その中にアリア(独唱)やコール(合唱)、コラール(衆讃歌)が挟まれて進行していくスタイルです。
「ピラトの審問」場面をCD付録の対訳から再現します。なお、音楽は流れませんので、悪しからず御諒承ください。
福音史家 かくて相議り、その銀貨をもて「陶器師の畑」を買い、旅人のための墓地となせり。これによりてその畑は、今日に至るまで血の畑と称えらる。かくて預言者エレミヤによりて言われたることは成就したり。曰く「かくて彼ら、イスラエルの子らより買い受けし者の身代金なる銀貨三十枚を取りて、陶器師の畑と引換えにこれを与えたり。主の我に命じ給いし如し。」
さてイエス、総督の前に立ち給いしに、総督問いて言う。
ピラト 汝はユダヤ人の王なるか?
福音史家 イエス言い給う。
イエス 汝の言う如し。
福音史家 而して祭司長、長老らよりの告発ありたれど、何をも答え給わず。ここにピラト、イエスに言う。
ピラト 聞かぬか、彼らが汝に対して如何ばかり不利の証拠を挙ぐるかを?
福音史家 されど一言も答え給わざれば、総督もまたいたく怪しみたり。さて祭の時に、総督は民衆の望みに任せて、囚人一人を赦免する習わしあり。ときに、バラバという名だたる囚人、ピラトの下にあり。かくて人々の集まれる時、ピラト言う。
ピラト 汝ら、我が誰を赦免せんことを願うか。バラバなるか、はたキリストと称うるイエスなるか?
福音史家 これ、ピラト彼らのイエスを渡ししは、妬みによると知る故なり。彼なお裁判の座に着きおる時、その妻、人を遣わして言わしむ。
ピラト妻 この義人に関わり給うな。われ昨夜、夢の中にてこの人の故に、さまざま苦しめり。
福音史家 されど祭司長と長老らは民衆を説き伏せ、バラバの赦免を願いイエスを滅ぼさすべく請わしめたり。総督答えて彼らに言う。
ピラト この二人のうち、いずれを我が赦免せんことを願うか?
福音史家 彼ら言う。
民衆 バラバ!!
福音史家 ピラト言う。
ピラト さらば、キリストと称うるイエスを、我如何に為すべきか?
福音史家 彼らみな言う。
民衆 十字架につくべし!!
福音史家 総督言う。
ピラト 彼何の悪事を為したるか?
福音史家 彼らますます声を大にして叫びて言う。
民衆 十字架につくべし!!
福音史家 ピラトは、己の語りしも何の効果なく、かえりて騒乱の起こらんとするを見て、水を取り、群衆の前に手を洗いて言う。
ピラト この義人の血につきては、我に咎なし。汝ら自ら当たれ!
福音史家 民衆挙りて答えて言う。
民衆 その血は、我らと我らの子孫に帰すべし!!
福音史家 ここにピラト、バラバを赦免し、イエスを鞭打たせ、これを十字架につくるために渡せり。
大衆(この場合ユダヤ人ですが)の愚かさというものを、わたくしはここに見てとるのであります。
ありがとうございました。
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