《 第29話 》 「赤星博士は生きているか?」
【 あらすじ 】 繁に手紙を渡した女ユリはどくろ仮面の一味だった。そうと知らない繁は柳木博士に預かった手紙を渡す。それは、自分の研究資料を預かってもらうため、来て欲しいという赤星博士からの手紙だった。柳木博士は罠ではないかと悩む。
祝探偵事務所。朝刊を読む五郎八。
五郎八 「ほ~う。『なお、繁君と木の実ちゃん救出には、目下インド旅行中の名探偵祝十郎氏の助手、袋五郎八氏の活躍も特筆せねばなるまい。』 は~あ、さすがは山本君、いいところがあるぞ。」
カボ子 「なにボヤいてんの?」
五郎八 「おおっ、ボヤいてんじゃないよ、感激してるんだ。」 新聞を指さし 「これを見てくれ、これを。袋五郎八って、『探偵界のホープ』って書いてあるんだよ。」
カボ子 「ウソおっしゃい。あたし、読んで知ってるんだから。」
五郎八 「ちぇっ、そう言っちゃねえ。」
カボ子 「あっ、そんなことよりね、繁ちゃん、また出かけたけど、何処行ったの?」
五郎八 「え~っ、また出かけちゃった? あ~あ、昨日は昨日で心配かけといて~。木の実ちゃ~ん、木の実ちゃ~ん。」
木の実 「な~に、五郎八さん。」
五郎八 「繁ちゃん何処行ったか知らないかい?」
木の実 「知らないわ。だって、黙って行っちゃったんだもの。」
五郎八 「おかしいなあ。まさか、またどくろ仮面の一味にさらわれたんじゃあ・・・。」
カボ子 「んっん、よしてよ。縁起でもないこと言わないで。」
五郎八 「ちぇっ、こっちゃあ叱られてばっかりいらあ。つまんねえなあ。」
木の実 「うふふ。五郎八さんは、カボ子ちゃんに弱いのね。」
五郎八 「あ~あ、そう言っちゃねえ~。」
女の子にまで心内を見透かされた五郎八迷探偵、「男はつらいよ」ってとこでしょうね。
柳木博士邸。繁が持ってきた赤星博士からの手紙を読む柳木博士。
手紙文;(縦書き・墨書・草書体)
親愛なる柳木博士
私はどくろ仮面に囚れの身となって、日夜、地に潜る円盤の秘密を渡せ、と責められて参ったが、幸いに死んだ助手風間の妹の手引で、どくろ仮面一味のアジトを脱出、目下彼等の目を逃れて某所に潜んで居るが、病苦の為何時死ぬやも知れぬ状態にあります。
ついては、私の研究資料の一切を、敬愛する貴下に御預り願いたいのである。もし、御宜しければ、来る三月二十日午後七時、有楽町のアマンドなる喫茶店まで御運び願いたい。さすれば、風間の妹ユリが、貴下を私に引合せるでありましょう。
世界平和の為、科学者の良心を最後迄守る為、貴下の御友情を切に期待するものであります。
博士 独り言 「三月二十日・・・。アマンド・・・。」
繁 「先生、その手紙の字、本当に赤星さんのですか?」
博士 「ん? おおっ、間違いない。」
繁 「じゃあ、僕、少しはお役に立ったんですね。」
博士 「ああ、大事な手紙だよ。しかし、繁君。どうしてこの手紙を手に入れた?」
繁 「どくろ仮面のあとを追って行き、見失って困っていた時にです。そしたら、ユリってお姉さんが来て・・・。」
博士 「うん、その外には誰か・・・。」
繁 「誰も居ませんでした。」
博士 「そこのところがどうも奇妙なんだが・・・。あ、いやあ、こういうことは坊やに言ってもわからんな。はっはっは。いや、有り難う。」
繁 「じゃあ、僕、あや子お姉さんと遊んで帰ります。」
博士 にっこりと 「やあ、ご苦労だったね。」
繁 出ようとして戻り 「先生、三月二十日アマンドって何ですか?」
博士 「はっは。いやあ、何でもないよ。それよりも、木の実ちゃんによろしく言ってくれ給え。」
繁 「はい。」
繁少年は、「お役に立った」と喜んでいますし、博士は、「ご苦労」の言葉でその労をねぎらっていますね。
それより、ここで注目したいのは、意外に思われるかもしれませんが、「木の実ちゃんによろしく言ってくれ給え。」なのです。
五郎八にしろ、カボ子にしろ、伝言を聞いて「他に何か言ってませんでしたか。」という常套句があります。返す伝言者の言葉が「ああ、よろしく言ってた。」です。これを聞いて、自分のことを気にかけてくれている、とわかって安心するわけですね。
自分の子供時分も同様でした。一般家庭に未だ電話などない時代の話です。自分のことより、親しい知友人のことを気にかけていた頃ならではでありましょう。利己主義的現代流価値観からは想像できない社会が、かつての日本に現実としてあったのです。
手紙文はチラッとしか出ませんので、音声を聴き起こしました。
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