《 第15話 》 「危険なドライブ」
【 あらすじ 】 インドからの客が祝事務所を訪れ、祝を空港に迎えに行こうと繁と木の実を連れ出す。カボ子は偶然に二人が車に乗せられるのを目撃し、話を聞いた五郎八は二人を連れ出したのは祝に事件を依頼したアダラ・カーンであると推理し、二人を探しに行く。
前夜の疲れから、ソファで眠りこける五郎八のところへ、
木の実 「あらあ、まだ眠っているわ。」
繁 「起こしちゃおうか。」
木の実 「う~ん。でも五郎八さん、今朝寝たのよ。可哀想だからもう少し寝させてあげましょうよ。」
繁 「うん。でもさあ、ちょっと起こしてやろうよ。何かまた忘れていると困るよ。」
木の実 「うん、そうね。」
二人で揺すって五郎八を起こそうとするが、目を覚まさない。
繁 「やっぱり五郎八さんは梟(「袋」姓に引っかけて)だね。夜にならなきゃ、目を覚まさないよ。」
木の実 「あっ、いいことがある。」
繁 「ん?」
木の実 「カボ子ちゃんを呼んできたらいいわ。きっとびっくりして目をパチクリよ。」
繁 「うん、そうしよう。」
二人、肩をすぼめて笑いながら表へ。
子供とはいえ、木の実の女らしい思いやり、いぢらしいではありませんか。それに、カボ子を呼ぼうというこの発想。子供の淺知恵と侮るなかれ。五郎八が最も怖がる(?)人物を、女の直感で嗅ぎ分けているのです。少女、恐るべし。
祝探偵事務所玄関口に繁と木の実が出てくる。
繁・木の実 カーンを発見し 「あっ。」
カーン 「こんにちは、坊ちゃん、嬢ちゃん。」
繁・木の実 「こんにちは。いらっしゃい。」と丁寧にお辞儀。
木の実 「インドのお客様でしょう?」
カーン 歩み寄り 「お~、よく憶えてくれていましたね。実は坊ちゃん。」
繁 「な~に、小父さん。」
カーン 「祝先生が、今日インドからお帰りになるのですが、坊ちゃんも嬢ちゃんも飛行機まで迎えに行きませんか?」
繁・木の実 顔見合わせ小躍りして 「わあ~っ。よかったね。」
木の実 「じゃあ、先生から電報が入ったんですね。」
カーン 「そうです。すぐ迎えに行きます。一緒にいらっしゃい。」
木の実 「じゃああたし、帽子取ってくる。」
カーン 「あっ、いや、自動車待たせてますから、そのままそのまま。さ、早く行きましょ、行きましょ。」と車に連れ込む。
偶然に、その様子をカボ子が目撃。
カボ子 独り言 「あっ。木の実ちゃん。おかしいな、何処へ行ったのかしら?」
ここへ来てようやく、欠落している「第1話」の内容が見えてきました。子供たちが、何の疑問もなくついて行ったのは、アダラ・カーンが祝探偵の“お客さん”であることを知っていたからでしょう。子供時分に躾けられる事の一つは「見知らぬ人について行くな。」ですね。坊ちゃん嬢ちゃん、うっかりついて行くと、曲馬団に売り飛ばされますよ。
それにしても、子供に対してさえこの丁寧な言葉遣い。我々は、アダラ・カーンがどくろ仮面一味であることを既に知っていますが、そうでないなら、子供ならずとも騙されてしまうところですね。
再び祝事務所。眠りこける五郎八に、
カボ子 優しく「五郎八さん。」 起きないので 「五郎八!!」と言いつつ、五郎八の鼻を思いっきり抓る。
五郎八 びっくりして 「あっ、あっ、あっ、カボ子ちゃん。」
カボ子 「『カボ子ちゃん』じゃないわよ。いま何時だと思ってんの、大切な留守居役を忘れて・・・。繁ちゃんと木の実ちゃん、ドライブに行っちゃったわよ。」
五郎八 「え~っ?」
カボ子 「あんた、知らなかったの?」
五郎八 「うん。」 間があって 「ドライブに行った? 誰とだい。」
カボ子 「外国人の車でよ。」
五郎八 「外国人と? いったい誰かな?」
カボ子 鼻に抜ける声で 「ん~、暢気ねえ。」 急ににっこりして 「今朝の新聞、見たでしょ。」
五郎八 「あはっ、あれ、あれはねえ。え~、僕が書かせたんだよ。あんなことは軽いもんだよ。」
カボ子 ソファをお尻で揺すりながら 「どうだか・・。わかんないわよ。」
五郎八 「そう言っちゃねえ~。」
カボ子 「とにかく、そんなのんびりしてていいの? あたしの占いによると、今日は仏滅で大難来るの日よ~。」
五郎八 「おい、カボ子ちゃん、脅かすなよ。ここのところ災厄続きなんだから・・・。それにしても子供たち、何処へドライブに行ったのかなあ。」といって大欠伸。
カボ子 鼻に抜ける声で 「んっん、失礼ね。レディを前に欠伸なんかしてさ。」
五郎八 「そう言うなよ、カボ子ちゃん。何しろ今日の四時頃まで、てんてこ舞いだったんだから・・・。節子さんをねえ、どくろ一派から助け出して、眠ったのが六時過ぎなんだよ。」
カボ子 「ふ~ん。じゃ、節子さん居るのね。」
五郎八 「うん、居るだろう。今日はね、モデルの仕事は休みだから、子供たちにご飯の支度をしてあげる、と言ってたからね。」
カボ子 「じゃ、外国人のことも、節子さんは知ってるわけね。」
五郎八 「はてな~? 節子さ~ん、節子さ~ん。」
カボ子 「居ないらしいわね。」
五郎八 「おかしいなあ。」
節子 「ただいま。」
山本 「やあ、昨日はどうも。」
五郎八 「節子さん。木の実ちゃんと繁君は、何処へドライブに行ったか知っている?」
節子 「えっ、ドライブ?」
カボ子 「ええ、外国人の車で。」
節子 「知るも知らないもあたし、二人にご飯を出してあげた後、それからアパートに回って、お兄様と今来たばかりですもの。」
五郎八 「え~っ? じゃあいったい誰と行ったんだろう。」
山本 「おかしいなあ。」
カボ子 「あたしもそう思うわ。あの子たちに万一のことがあったら、祝先生に何てお詫びをするのよ~。しっかりしてよ~。」
五郎八 「ああ、わかっているよ。」
山本 「どうも変だなあ。まさか無理矢理連れて行かれたんじゃないだろうね。」
五郎八 膝を叩いて 「うん、わかった。子供たちが信用してついて行ったとすると、あいつだ。あのインド人かもしれん。」
山本 「ん? インド人?」
五郎八 「イエ~ス。祝先生にインドの事件を頼みに来たアダラ・カーン。あいつだ。」
カボ子 「現金ねえ、あんたって。『あいつ』って何よ。遊びに連れ出したかもしれないのに、やたら疑ったら悪いわよ。」
五郎八 「うん。しかし、遊びに行ったとしても、僕に断らずに行くのはどうもおかしいよ。そうでしょ、山本さん。」
山本 「うん。」
カボ子 「だって五郎八さんは寝てたからじゃないの。」
山本 「臭いなあ。どうも僕には、遊びに連れ出されたような気がしないんだがなあ。」
五郎八 「よし、こうなったら奥の手だ。カボ子ちゃん、ぜひ占ってみてくれよ。」
カボ子 「そう改まって言われたって自信ないわよ。とにかく、あんたの責任なんだから探してらっしゃい!!」
五郎八 「えっ、この僕一人でかい?」
カボ子 「そう、貴男も名探偵の端くれでしょ。」
五郎八 「ちぇっ、ん~ん、名探偵は辛え~なあ。では、行ってまいります。」
全員 「はい。行ってらっしゃい。」
ここでは、子供たちが行方不明になった責任を、まず五郎八が引き受けることになりましたが、後の展開で責任のなすり合い、ならぬ責任の引き受け合いがはじまります。お楽しみに。
ありがとうございました。
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